フォルクスワーゲンの新型EVミニバン「ID.Buzz」。六本木ヒルズのイベントにて(写真:筆者撮影)

フォルクスワーゲンジャパンが6月20日、新型EV「ID.Buzz」を日本で発売した。それに伴い、同社のフルラインアップの販売促進を兼ねた独自イベントを東京、大阪、名古屋で企画。ID.Buzz効果によって、ブランド価値の向上を目指し攻めの戦略に出た。日本市場では、EVミニバンという未知の世界に参入したID.Buzzは、EV界の台風の目になるのか。フォルクスワーゲンの事業戦略を振り返りながら、その行方を探る。

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

広く知られた「ワーゲンバス」とともに新車をお披露目

「これはけっこう、売れそうですね」

 東京・六本木ヒルズで開催された「フォルクスワーゲン・ブランド・エキシビジョン」で旧知のフォルクスワーゲン関係者と意見交換しながら、ID.Buzzに対して筆者の口からふと漏れた言葉だ。

 同イベントの少し前に、ID.Buzzの報道陣向け発表会が都内で実施されたが、筆者は所用で参加できなかったため、ID.Buzz日本仕様の量産車を見るのは、今回が初めてだった。

 ID.Buzzの隣には、デザインモチーフとなった旧車「Type 2」(通称:ワーゲンバス)が並び、ID.Buzzの世界観を分かりやすく表現した。

 Type2は、1950年代から1970年代にかけてグローバルで発売された、フォルクスワーゲンとして第2弾となるクルマである。第1弾の「Type1」は、1938年に公開した「ビートル」だ。

「ID,Buzz」のデザインモチーフになった「Type2」(写真:筆者撮影)

 いまではミニバンというカテゴリーが日本を中心にグローバルで確立されているが、Type2はミニバンの起源と言える存在だ。

 ボディサイズで言えば、Type2はかなり小さく見える。展示車のグレードは「Pro」(888万9000円)で全長4715mm×全幅1985mm×全高1925mm、ホイールベースが2980mmとかなり大きい。このほか、全長4965mm、ホイールベース3240mmの「Pro ロングホイールベース」(997万9000円)の設定もある。 

 こうした展示が奏功し、来場者の多くがType2とID.Buzzを見比べながら、ID.Buzzが提唱する世界観に共感しているようだった。

 では、時計の針を戻して、ID.Buzz誕生の経緯を振り返ってみたい。