具体的には、核兵器を作れないように、ウランの濃縮度の上限を3.67%とし、貯蔵量は300kg未満とした。
濃縮度3〜5%のものが原子力発電の燃料として使われ、核兵器には濃縮度90%以上のウランが必要である。
イランの核合意違反
ところが、5月31日のIAEA(国際原子力機関)の報告書によると、イランが濃縮度60%に高めたウランの生産を加速させ、貯蔵量が400kg以上になっている。60%から90%にまで高めるのは容易である。
2月には、274.8kgだったのが、5月17日には408.6kgになっており、核爆弾9個を製造できる量である。
6月12日には、IAEA理事会は、IAEAへの調査への協力が不十分だとしてイランを非難する決議案を採択したが、この非難決議を大義名分に、イスラエルは攻撃に踏み切ったのである。
トランプ第一次政権は、イランがウラン濃縮そのものを停止することを求めて、2018年に核合意から離脱した。それに反発したイランは、核開発を再開したのである。
その後のバイデン政権も、核合意に戻ることはなかった。
イランでは、選挙の結果、大統領の座に保守強硬派と穏健派が交代で就いており、前者の時代には核開発を推進する傾向がある。保守派のライシ大統領の事故死を受けて行われた昨年夏の大統領選では、穏健改革派のマスード・ペゼシュキアン元保健相が、保守強硬派のサイード・ジャリリ元最高安全保障委員会事務局長を破って当選している。
そのペゼシュキアンも、今回のイスラエルとアメリカによる攻撃には、対応を苦慮している。
アメリカが攻撃した核施設については、バンカーバスターの到達距離が地下40メートルであり、フォルドゥの地下施設は60メートルの深度にある。
情報が錯綜しているが、国防省の情報局(DIA)は、イランの核開発の中核部分は破壊されておらず、計画を数カ月遅らせる程度にとどまったのみだという。これに対して、トランプは反論し、「施設は完全に破壊された」と述べ、CIAのラトクリフ長官は、25日、「再建には数年かかるだろう」と指摘した。どちらの情報が正しいか不明である。また、既に60%まで濃縮されたウランが別の場所に保管されているという情報もある。
今後の両国間の核協議では、主張は平行線を辿るであろうし、軟着陸できるかどうかは不明である。