取適法施行で違反企業が続出?(写真:共同通信社)
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下請法が改正され、2026年1月から中小受託取引適正化法(以下、取適法)が施行される。デフレ下で染み付いていた「下請けいじめ」を是正し、価格転嫁を容易にしようという狙いだ。企業の競争法に詳しい弁護士の長澤哲也氏は「取適法はこれまでとは次元が異なる法律だ。違反企業が次々と摘発されるだろう」と予想する。新年早々、摘発に本腰を入れる公正取引委員会(以下、公取委)の動きに戦々恐々とする企業が増えそうだ。

(湯浅大輝:フリージャーナリスト)

スケールの大きな法改正

──長澤弁護士は約20年にわたり、競争法に関する様々な相談に乗ってきました。1月から施行される取適法は「下請法と次元が異なる」とのことですが、その真意は?

長澤哲也氏(以下、敬称略):取適法は、単に「下請法を改正しました」というだけの法律ではありません。日本のマクロ経済環境を考えたとき、これ以上下請けにコストを吸収させるだけでは日本経済に未来はない、という強い危機意識をもとに生まれ変わった法律です。

 もともと日本の製造業は、「カイゼン」に代表されるように、サプライチェーン全体を通じて品質や生産性を向上させる精神が根付いた強みを有していました。

 しかし、異常に長く続いたデフレは、サプライチェーンに歪みを生じさせました。資本主義経済は緩やかなインフレ基調が前提であるはずなのに、デフレが長引いたことで企業の最適解は「値下げ」に終始し、それが目的化するようになってきました。

 大企業は、サプライチェーンを値下げの吸収先と位置付け、「いつでも他の下請け企業に発注先を変える」という姿勢をちらつかせることで、値下げを追い求めました。

 その結果、サプライチェーン全体が価格競争にのみ終始し、製品のコモディティ化が進んでその多くが外国品に代替され、日本経済全体の力が落ちるという事態を招いてきたわけです。

長澤 哲也(ながさわ・てつや) 弁護士(弁護士法人大江橋法律事務所) 1994年東京大学法学部卒業、2001年ペンシルベニア大学ロースクール(LL.M.)修了。独禁法、下請法、景品表示法等の競争法を専門とし、公正取引委員会等による調査への対応や、競争法関連の民事訴訟対応、コンプライアンス体制の構築支援、競争法違反とならない積極的なビジネススキームの立案サポート等を得意とする。主著として、『独禁法務の実践知〔第2版〕』(有斐閣、2024年)、『取引適正化法制の解説と分析』(商事法務、2026年2月発売予定)。

 もちろん、公取委もこの問題を認識していたと思います。しかし、企業間の取引の内容に政府が介入することには慎重な姿勢が貫かれていました。公取委は独占禁止法を所管する役所です。価格そのものに介入することは、かえって自由な競争を統制することになりかねません。

 現に、旧下請法においては、「買いたたき」として摘発されたケースはほとんどなく、違反行為のほとんどは「代金減額」、すなわち、発注時に取り決めていた約束を反故にするという行為で占められていました。

 そうしたところ、昨今は物価高も相まって企業は賃上げを行うなど、デフレからようやく脱却しつつあります。

 インフレ基調の経済では、企業は新製品やサービスを開発するなどしてイノベーションを起こすことが成長の原点となります。イノベーションを起こすためには、外部のアイデアや技術を積極的に取り入れることが必要ですが、従来は「下請け」と呼ばれていたサプライチェーンの企業が、そのための重要なパートナーとなります。

 日本の経済が再び力強く成長するための前提として、発注企業と受注企業は、品質と生産性の向上、さらには革新的なアイデアや技術の創出に向けて、互いにコミュニケーションを密にして健全な関係性を構築することが求められます。

 発注企業が受注企業に対して価格などを一方的に押し付けているようでは、企業間の有意義な関係性など築けるはずがありません。インフレになりつつある今こそ、受注企業と発注企業の関係性を健全化する必要があるという発想が、法整備の根底に流れています。

──公取委は具体的にどのように動くと予想しますか。