
(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)
公正取引委員会が、プロ野球12球団を統括する日本野球機構(NPB)を調査していると報じられた。プロ野球の日本シリーズ(日本S)の取材パスをフジテレビから没収したことなどが、独占禁止法違反(不公正な取引方法)に当たる恐れがあるという。
フジは昨年、他局の日本S中継と同じ時間帯に米大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手らが出場したメジャーのワールドシリーズ(WS)のダイジェストを放映した。これに激怒したNPBが、取材パスを没収した。
公取委はこのNPBの行為に「取引妨害」の可能性があると判断。NPBからすれば、フジテレビに“お灸を据えた”つもりだったかもしれないが、メディアと一蓮托生だったプロ野球という「ムラ社会」の論理を世間に露呈することになった。
ファンもメディアも、選手自身もメジャーに視線が向く中、危機感を抱いたNPBによるムラ社会の理屈を破った者への制裁が、公取委から次々とNOを突きつけられている。
NPBとMLBは競合関係?
今回の公取委の動きをスクープしたのは、朝日新聞だった。
「野球機構 独禁法違反疑い」「日本シリーズ フジ取材パス没収」「公取委調査 コンテンツ制約の恐れ」
朝日新聞は4月30日付朝刊1面で大きく報じ、プロ野球に詳しくない読者にもわかりやすいように図表も添えられていた。記事でも図表でも、公取委はNPBと米大リーグ機構(MLB)を「競争関係」にあると位置付けていると指摘している。
独禁法に照らし合わせた構図はその通りだろう。だが、NPBとMLBが「競争関係」にあるかと問われれば、市場規模に何倍もの開きがある実態から乖離していると首をかしげざるをえない。
プロ野球のシーズンが佳境を迎えた昨秋、日本国内でも主役は、間違いなく大リーグのドジャースであり、大谷選手だった。大谷選手がメジャー史上初となる同一シーズンでの「50本塁打、50盗塁」を達成した勢いそのままに、ドジャースは大谷選手の移籍1年目にWSを制覇した。スポーツ紙も連日、ドジャースの試合結果や大谷選手の打撃の詳細などを大々的に伝えた。
そうした状況の中、日本Sは開催された。