フジの行為は「裏切り」か

 時差の関係で、WSは日本時間の午前に行われ、日本シリーズはナイター開催と区分けができていたはずだった。しかし、WSの放映権を持つフジは午前の中継に加え、他局の日本シリーズ放映と同じ時間帯にも急きょ、ダイジェスト版を放送した。これが、「信頼関係が著しく毀損された」としてNPBの怒りを買ったというのが背景だ。

 朝日新聞の報道では、NPBは24年11月10日まであった野球日本代表「侍ジャパン」の強化試合でもフジに取材パスを発行しなかっただけでなく、フジが予定していた日本シリーズ第3戦の中継局もTBSに移そうとしたという。

 NPBからすれば、メディアとともにプロ野球を長年にわたって盛り上げてきたという「身内意識」が強く、フジの行為は「裏切り」に映っただろう。しかし、冷静な目でみれば、フジが番組編成を変更してまで、WSのダイジェスト版を放送したのは、視聴者のニーズが高かったからに他ならない。

昨年ワールドシリーズで優勝したドジャースの大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 大谷選手が出場したWSの結果はネットニュースなどで知っていたとしても、ダイジェスト版であったとしても試合を見たいというファンがいたことを見逃してはいけない。実際、フジテレビが放送したダイジェスト版は一定の視聴率を獲得している。

 1995年に野茂英雄氏がメジャーの扉を本格的にこじ開けて以降、日本のトップ選手のメジャー流出が続く。選手が海を渡ることは止められないとしても、NPBにとっては、日本国内のマーケットは自分たちの縄張りだという意識は当然あるだろう。

 しかし、野球や大谷選手ら日本人メジャーリーガーのファンにとってはボーダーレスだ。ドジャースのスポンサー企業に日本の大手企業が名前を連ね、3月のドジャースとカブスによる日本開幕戦の時期に代表されるように、国内でもメジャー関連のグッズは人気が高まっている。NPBの強硬な姿勢は、逼迫している現状の裏返しともいえる。

 その一方で近年は、プロ野球という日本の「ムラ社会」で通用してきた掟が、公取委から独禁法違反の恐れを指摘されるケースが相次ぐ。