春闘が始まり、各社の賃上げ率に大きな注目が集まっている。多くの企業が賃上げそのものに前向きな姿勢を示しているものの、物価を超える賃上げを表明するところは少なく、特に中小企業の状況は厳しいのが現実だ。日本の中小企業の多くは、下請けなど大手企業に対して従属的な関係にあり、大手企業がコスト増加分を支払い価格に転嫁しない限り、中小企業が賃上げを実現するのは難しい。(加谷 珪一:経済評論家)
極めて厳しい日本の中小企業の経営環境
総務省が発表した2023年1月の東京都区部における消費者物価指数の上昇率は4.3%となり、歴史的な上昇幅となった。全国の消費者物価指数と東京都区部の消費者物価指数は同じように動く傾向が顕著となっており、この状況が続けば全国の消費者物価指数も同レベルの上昇となる可能性が高い。
全体的な物価が4.3%上がっている以上、春闘での賃上げ率が5%程度にならなければ、実質的に労働者の賃金は下がったことと同じになる。政府は経済界に対して強く賃上げを要請しているほか、連合も5%程度の賃上げを経営側に要求している。経済界は賃上げそのものに前向きな姿勢を示しているものの、5%以上の賃上げができる企業は限られているのが現実だ。特に中小企業は賃上げの原資を捻出できないところが多く、賃上げしたくてもできないというのが大半と考えられる。
日本の場合、中小企業は独立した経営をしているところが少なく、大手企業の下請けあるいはそれに近い形で従属的な関係になっているケースが多い。