自己実現的にドル相場が凋落する可能性も
市場参加者から信じてもらえなくなり、資本流入が見込めなくなると、より制御の難しいドル安、ひいては非ドル通貨の上昇が起きる可能性がある。さしずめ2022年9月に英国で発生したトラスショックの大規模版である。
現に、日本でも台湾でも「為替は争点ではない」と当局者が連呼しているにもかかわらず、通貨高が発生したのは「口ではそう言っているが信じられない」という空気が作用した結果だろう。
このような状況が漫然と続くことで、自己実現的にドル凋落相場がメインシナリオに切り替わっていくのかどうか。筆者はまだそこに賭ける立場ではないが、各国関税交渉に思ったほどの進展が見られていないことで、そのリスクは確実に高まっていると言わざるを得ない。
※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2025年4月14日時点の分析です
唐鎌大輔(からかま・だいすけ)
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。