
(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)
3度目の格下げ
5月16日、米格付け会社ムーディーズは、米国の長期発行体格付けと無担保優先債格付けを最上位の「AAA(トリプルA相当)」から「Aa1(ダブルA相当)」に1段階引き下げることを発表した。
既にフィッチとS&Pグローバルに関しては最上位格付けを喪失していたため、これで主な格付け会社から米国債の最上位格付けが消滅したことになる。
過去2回直面した米国債格下げにおいては、現実問題として米国債の代替資産は存在しないという事実が尊重された結果、格下げは儀式的なアクションと受け取られ、金融市場において争点化することはなかった。
具体的に過去の事例を振り返っておくと、2011年8月8日にS&Pグローバル、2023年8月1日にフィッチがそれぞれ格下げに踏み切っている。
前者の格下げ時、同日のNYダウ平均株価は約▲5.5%下落し、当時としては史上6番目の下げ幅を記録したが、後者の格下げ時は小幅下落に留まった。長期金利に関しても、双方共に米金利は一時的に押し上げられたものの、持続的な上昇には至っていない。
後者の格下げ直後は確かに米10年金利のまとまった幅の上昇が注目されたが、同じタイミングで強い米経済指標(具体的には米7月ADP雇用報告)の発表が重なり、FRBの利上げ観測が強まったという事情があった。
繰り返しになるが、過去2回の事例では米国債への根本的な信認、言い換えればドルという基軸通貨への信認が揺らぐことはなかった。
しかし、である。周知の通り、4月2日の「解放の日」以降、金融市場では「ドルの基軸通貨性」が一大テーマと化している。現時点で格下げを受けた金融市場の反応は限定的だが、今回の動きが米金利急騰を促すトリガーになりかねないと不安を抱いたのは筆者だけではないだろう。