外貨準備のドル比率低下の次は原油取引のドル建て表示か
冒頭で過去2回の格下げでは「ドルという基軸通貨への信認が揺らいだ様子はほぼ感じられなかった」と述べた。「ほぼ」と含みを残したのは、不安な兆候もあるためだ。
今後、基軸通貨の立場が本当に喪失するとしたら、それは急性的に一夜で発生するものではないだろう。それまでの慣性(inertia)を引きずりつつ慢性的な喪失が進むはずである。
この点、過去の本欄でも議論したように、貨幣の3機能(価値保蔵・価値尺度・交換)に照らすと、価値保蔵の代理変数となる世界の外貨準備におけるドル比率は慢性的な低下傾向にある(図表①)。

少なくとも10年前まで、ドル比率の60%割れが常態化すると考える向きは多くなかったはずだ。
これが水面下で起きている「基軸通貨性の喪失」の兆候だとすれば、次は原油取引のドル建て表示などにBRICS首脳会議が切り込み、価値尺度機能が毀損される展開などは要警戒である。
この点は年初の本コラムへの寄稿「今年最大のテールリスク「プラザ合意2.0」はブラックスワンか、焦点はトランプ政権がどこまでドル高を許容するかに」で詳しく議論しているので、ご参考いただきたいところだ。
もとより、こうした懸念が漂うところに今回の格下げが重なっているため、過去2回に比べてドル安や米金利上昇の併発を伴いやすい状況が持続する可能性はある。
とはいえ、過去にそう言われてきた通り、存在感が落ちているドルの代替資産があるのかと言えば、そうではない。結局、地政学リスクの高まりに応じて軍事力を背景とした米国、ひいてはドルへの評価が高まるという古典的なロジックが戻ってくると筆者は考えている。
※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2025年4月19日時点の分析です
唐鎌大輔(からかま・だいすけ)
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。