格下げで封じ込められたトランプ減税
もともと米中関税協議が軟着陸したことで関税相場は小康を得ていたが、それと入れ替わるように財政懸念を理由とする米金利上昇がテーマ性を帯びつつあった。皮肉なことだが、関税政策への懸念が下火になったことで(関税を通じた)税収が減少し、米金利の上昇が促されるという解釈まで出始めている。
こうした状況下、一時期は市場心理を好転させる切り札のように期待されていた減税措置も、「財政懸念の高まり→米金利上昇→株安」を呼び込む悪材料として解釈されやすい雰囲気があった。そこへ来ての今回のムーディーズの格下げである。
なお、今回格下げに踏み切った理由としては財政赤字の拡大傾向、金利上昇による利払い負担の増勢といったスタンダードな論点のほか、「2017年に導入されたトランプ減税が延長された場合、今後10年間で連邦政府の基礎的財政赤字(利払いを除く)が約4兆ドル増加する」との試算も紹介されている。
つまり、減税延長は次なる格下げを検討する材料になり得るため、市場はやはり金利上昇で反応することになるだろう。現時点では「拡張財政路線による米景気浮揚」というシナリオは事実上、封印されたと考えざるを得ない。
ちなみに、日本では現在、消費減税の可能性が争点化しているが、日本国債の格付けが巨額の政府債務と低成長にもかかわらず投資適格級を維持できているのは、諸外国対比で抑制されている消費税に引き上げ余地があるためという解釈も存在する。とすれば、現在の野党を中心とする議論の方向性は危ういものだろう。