本当に基軸通貨国の特権を捨て去るのか?
なお、5月6日に公表された米国の3月貿易収支は過去最大の赤字だった。もちろん、これは関税発動を見越した駆け込み対米輸出の影響だが、歴史を振り返れば、米国の貿易収支はドル安時にはJカーブ効果(※)がビビッドに働きやすいという性質がある。
※自国の通貨の価値が上昇(下落)した時に、短期的には貿易収支が改善(悪化)するものの、その後、徐々に悪化(改善)していく現象のこと。短期的には予想される方向とは逆向きになる。
駆け込み対米輸出の存在を脇に置いたとしても、ドル安と米国の貿易赤字拡大は年単位で併存する可能性は想定しておく必要がある。
それはトランプ大統領が望む結果ではないはずだが、そうなる可能性は高い。この点は詳しい分析が必要になるので、別途、機会を設けて解説したい。
今さら確認する話ではないが、そもそもなぜ米国が大きな貿易赤字を計上し続けられるのかという基本に立ち返る必要がある。
言うまでもなく、基軸通貨国である米国に対して海外から絶え間ない巨額の資本流入が持続し、経常(貿易)収支が赤字でも金融収支では黒字を確保できるからである。アジア諸国が抱える米国債もその一環だ。
よって、その売却を強いるような政策は、文字通り、基軸通貨の自滅と言って良い。トランプ政権は言われなくても投資してもらえるという特権を自ら捨て去ってしまうのだろうか。
この自傷行為が続く限り、米国債や米国株から資金を引き揚げるといった形でドル相場の急落と米金利の急騰が併存する4月上旬のような状況が再現されかねない。アジアのリザーブマネーを本当に巻き込むなら、米国債の消化構造が根本的に変わる契機になるはずである。
もちろん、そのような展開をトランプ政権が望んでいるとは思わないが、4月のような混乱が立て続けば、もはや「望んでいない」と言ったところでそれを相手が信じるかどうかは別問題という次元に達する可能性もある。