ウイルスの「進化予測」とは

伊東:コロナ禍真っただ中の2021年1月に、私の上司である東京大学医科学研究所の佐藤佳教授が研究コンソーシアム「G2P-Japan」を設立しました。G2P-Japanは新型コロナウイルスの変異株の性質を迅速に解明することを目的にしており、ウイルス学や免疫学、分子生物学などさまざまな専門性を持った研究者が参画しています。

 私はバイオインフォマティクス(生命情報科学)の専門家としてG2P-Japanに参加しています。

 私たちG2P-Japanでは、前述の次期流行株予測システムにより流行拡大のリスクの高い変異株を予測し、その変異株の性質を様々な実験により明らかにするという共同研究を実施してきました。そして、コロナ禍において相次いで出現してきた様々な変異株の性質・リスクを世界に先駆けて解明してきました。

 私たちは研究者ですので、本来は論文を出せば、そこでその研究テーマはいったん終了にできます。けれども、私たちG2P-Japanは、研究成果を社会に還元するという姿勢を常に意識してきました。

 G2P-Japanのメンバーは、WHO(世界保健機関)のSARS-CoV-2進化に関する専門家会議に参加し、この時期にこのような変異株が流行するというような情報をシェアしていましたし、国際的な変異株の「危険度ランキング」の作成にも貢献しました。

 また、国内大手製薬会社の顧問会議に出席し、次期流行株予測に基づいて、開発するワクチンがターゲットとする変異株についてアドバイスを行っていました。

 この一連の研究で最も重要なのは学際的な連携です。さらに、この研究では、次期流行株を予測することで、新たに出てきた変異株の性質を流行前に評価できるということが実証されました。

──どの程度先までの流行を予測できるのでしょうか。

伊東:数カ月程度先の流行状況までなら、かなり高い精度で予測可能です。

 これまでお話ししてきたことが「次期流行株予測」です。次期流行株予測は、あくまでも「現時点で観測されている変異株の中からどれが勝ち残るか」という予測に過ぎません。つまり、次の数カ月の間に、今まで観測していないような新しい変異株が出てきたとしても、それを予測できません。

 そこで必要となるのが、ウイルスの「進化予測」です。

──どのようにして、ウイルスの進化を予測するのですか。