第7部 ロシア国民福祉基金資産残高推移/流動性資産残高急減(=継戦能力低下)

  ロシアには「国民福祉基金」が存在します。

 これは一種の石油基金であり、もともとは「ロシア連邦安定化基金」として2004年1月の法令に基づき、同年設立されました。

 この基金は発足時2004年5月の時点では約60億ドルでしたが、油価上昇に伴い2008年1月には1568億ドルまで上昇。

 この安定化基金は2008年2月、「予備基金」と「国民福祉基金」に分割され、「予備基金」は赤字予算補填用、「国民福祉基金」は年金補填用や優良プロジェクト等への融資・投資目的として発足。

 分割時「予備基金」は約1200億ドル強を、残りを「国民福祉基金」が継承。

 その後「予備基金」の資金は枯渇して2018年1月に「国民福祉基金」に吸収合併され、現在では戦費に転用されています。

 露財務省は今年4月1日現在の露国民福祉基金資産残高まで発表しています。なお、この資産残高は預貯金残高ではなくあくまでも資産残高にて、過去に投融資した不動産等の資産も含みます。

2025年4月1日現在の露国民福祉基金資産残高:11.75兆ルーブル(GDP比5.5%)、うち流動性資産3.27兆ルーブル(同1.5%)(参考:現在1ルーブル約1.5円)

 今年4月1日現在の流動性資産残高(預貯金や金=Gold)は27.8%、非流動性資産残高は72.2%。流動性資産残高3.27兆ルーブルの主要内訳は1644億人民元と金(Gold)168トンです。

 ちなみに、昨年12月1日現在の流動性資産残高は5.79兆ルーブル(資産残高の4割)、うち金(Gold)282トンゆえ、この4か月間で流動性資産は約2.5兆ルーブル(約3.8兆円)減少、金114トンを売却したことになります。

 下記グラフをご覧ください。

 戦前の流動性資産残高は6割以上でしたが、2023年は5割台、昨年4割台に減少。今年は3割台から2割台に急減、このまま戦争が続けば今年中に国民福祉基金流動性資産は枯渇することが予見されます。

 これが、プーチン大統領が今年中に停戦実現を望む背景と筆者は考えます。

出所:露財務省統計資料より筆者作成

後編につづく「本心は一刻も早い停戦望むプーチン、油価下落で流動性資金ほぼ枯渇」