手術直後はパニック状態に

 麻酔から目を覚ますと、自分のベッドの周りを大勢の人たちが取り囲んでいた。正確な人数は記憶していないが、担当医、手術を担当した整形外科の先生、これまで感染症の処置をしてくれていた形成外科の先生、それと麻酔科の先生や看護師さんも数人いたと思う。

 もちろん彼らは術後の経過を確認するために、自分が目を覚ますまで待機してくれていたのだが、目が醒めた瞬間はその状況を理解することができなかった。手術を受けた記憶もないのに、自分の身体を見てみると右腕がなくなっている。何が起こったのかまるで理解できなかった。さらに、こんなに人が集まっているから「手術前に何か問題が起こってしまったのか?」と動揺し、完全にパニック状態に陥ってしまった。

 何が何だか分からないままベッドから起き上がろうとすると、先生方が「起き上がってはダメです。安静にしていてください」と制止した。それがますます自分を慌てさせてしまい、「何? 何? 何? とにかく何も分からん!」と叫びながら、何度も起き上がろうと試み、それを先生や看護師さんに窘められるやりとりを繰り返していた。おそらく10~15分ほどパニック状態が続いたと思う。

 そんなすったもんだを繰り返している中で、1人の女性が「佐野さん、私のことは憶えてる? ウナギの話したやん」と声をかけてきた。声の方向に目をやると、すぐに彼女が日頃お世話になっていた滋賀出身の医師だと理解することができた。彼女が関西弁で話しかけてくれたことで、彼女の言葉が自分の中にスッと入ってきたのだと思う。

「憶えてる、憶えてる! そうやな、ウナギの話をしたやんな。そうや。した、した、した! ちょっと待って、ちょっと待って! 落ち着く、落ち着くわ!」と一気にまくし立て、徐々に落ち着きを取り戻していった。

 自分が落ち着き始めたのを確認すると、誰かが「手術は無事に終わりましたよ」と声をかけてくれた。

「あ、そうなんですね。分かりました」

 自分の置かれた状況を何とか認識し、ようやくベッドに横たわることができた。

手術後の佐野慈紀氏