ちょっとした生活習慣の乱れが、40代以上ではピンチに?

 暑さが本番を迎えると、ついつい不摂生な生活をしてしまう人も多いはず。クーラーの効いた室内でゴロゴロしてしまったり、ちょっとした移動もタクシーを使って運動不足になったり……。その結果、秋を迎える頃にはお腹がポッコリ出ていたなんてこともよくある。

 さらに40歳あたりを過ぎると、仕事は忙しくなって、自分のために使える時間はわずかに。ますます健康への気遣いは減っていく。あわせて加齢で体も変化し、今まで大丈夫だったことがごまかせなくなることもあるだろう。「メタボ」や「生活習慣病」というフレーズにドキッとする40歳以上のビジネスマンはきっと多いはずだ。

 そんな生活が続くと、冗談では済まないような大きな病気にかかってしまうかもしれない。そのひとつが「糖尿病」。なんでも、40歳以上の男性の5人に1人は、糖尿病の予備軍だという(厚生労働省「平成24年国民健康・栄養調査」)。

 糖尿病は、昔からよく知られている病気。それだけに「何をいまさら」と思う人もいるかもしれない。しかし、実はその患者数も近年増加し続けている。これだけ医療が発達し、健康ブームが起きているにもかかわらず、である。40歳以上の男性にとっては、他人事ではない話なのだ。

 しかも厄介なのは、糖尿病の発見はとても難しいということ。初期に現れるのは、疲労感や頻尿といった小さなことばかり。「なんか最近疲れるなあ」と思っていると、実はもう糖尿病にかかっている。そんなケースさえあるのだから、なんとも悩ましい。

 もしもそうやって発見が遅れると、知らぬ間にいろいろな合併症が出てしまう。脳卒中や心筋梗塞はその代表だ。さらに放置すると、網膜症で目が見えなくなったり、壊疽(えそ)で足を切断したりしなければならない可能性も……。

 さらに、病気にかかったときの治療がツラいのも、糖尿病の恐ろしいところ。食事制限は基本中の基本で、食べたいものを食べられず、味付けさえも指導されてしまう。場合によっては、インスリン注射も日課に。不摂生の積み重ねが、こんな切ない事態に発展するかもしれないのだ。

 ちなみにこの糖尿病は、一体どんな原因で起こるのだろう。尿や血の中に糖分がたくさん含まれることは有名だが、肝心のメカニズムを知りたい。そこでキーワードになるのが「代謝」だ。

 本来、人間が食事によって取り込んだ栄養分は、体内でエネルギーに変換されていく。この一連の流れが「代謝」で、食物中の糖質も同じように代謝される。ただし、ここで大切なのは、代謝の能力は年齢や体の状態で変わっていくこと。そのため、もしも取り込んだ糖質をきちんと代謝できなくなると、体内に余ってしまう。その結果、尿や血の中に混じるのだ。

 つまり、糖尿病の原因は、糖の代謝が満足にできなくなること。「糖代謝異常」なのである。

 そこで糖尿病やその予備軍になった人は、真っ先に「食事制限」を行っていく。これは、体に入れる糖質を減らすことで、代謝の低い状態でも糖が余らないようにすることだ。ただその結果、甘いものや味付けの濃いものは食べられなくなり、ストレスがかさむ場合も……。だからこそ、食事制限だけでなく、糖の代謝異常そのものを改善することが大切になってくる。

 そういった研究の中で、実は今注目されている成分があることを知っているだろうか。それが「ALA(アラ・5-アミノレブリン酸)」だ。ALAを一定期間継続して摂った試験で、「糖代謝に関する働きが改善される」という結果が報告されたのだ。

 その試験について説明すると、軽度の高血糖者に対し、ALAと鉄を含んだ食品を12週間摂り続けたグループと、それらを含まない食事を摂ったグループにわけた。すると、ALAと鉄を摂取したグループは、糖を摂取して2時間後の血糖値があきらかに低下したという。さらに、血糖値の高さがより深刻で、糖尿病に近い状態の人ほど、その変化は顕著だったのだ。
 

ALAHigashikawa, F. et al.,"5-aminolevulinic acid, a precursor of heme, reduces both fasting an postprandial glucose levels in mildly hyperglycemic subjects," Nutrition, 29(7-8):1030-6, 2013をもとに改変

 

代謝に関わるアミノ酸「ALA」、その可能性に産学が注目!

 ここで気になってくるのが、ALAという成分の正体。初めて聞く人がほとんどだと思われるが、実は私たちの誰もが持っている、体内に不可欠なアミノ酸の一種なのだ。

 ALAを説明する前に、まずは代謝のメカニズムを考えてみよう。人間の細胞では、体内に取り込んだ栄養分をミトコンドリアでエネルギーに変えていく。この一連の流れが、先ほどから出ている「代謝」。もちろんその栄養分には、問題となる糖分が含まれている。

 実はこの代謝をする際に、ミトコンドリア内で機能しているのがALAなのだ。つまり、糖分や脂肪などの栄養をエネルギーへと変える上で、「無くてはならない細胞活性成分」と言っていいだろう。
 

ALA代謝の良い人と悪い人の違い

 

  ちなみに、人間の基礎代謝量は、30代、40代と年齢を重ねるうちに減少していくもの。特に40代を超えると、急速に下がっていくことがわかっている。実はこれと同じような曲線で、人間の体内で生産されるALAの量も減っていく。一般的には17歳頃がピークで、そこからは一転して減少。なんと40代を超えると、ピーク時の半分を切るほどにまで減ってしまうのだ。

 

基礎代謝の減少左:Hayashi, J. et al., "Nuclear but not mitochondrial genome involvement in human age-related mitochondrial dysfunction. Functional integrity of mitochondrial DNA from aged subjects," Journal of Biological Chemistry, 269(9): 6878-6883, 1994
右:厚生労働省

 

 ということは、40代以上の人にとって、ALAを意識的に外から摂ることが大切になるはず。だが、ALAはワインや黒酢、タコといった一部の食品に含まれているものの、含有量は本当にわずか。多くても、食品100gあたりで100〜150μg(マイクログラム)というレベルなのだ。これでは、食品から効果的に摂るのは難しそうだ。

 それともうひとつ、ALAを外から摂る上でのポイントがある。というのも、ALAはFe(鉄)を同時に摂取することで、より効果を増すことが分かっている。その理由は、ALAとFeが合わさると、体内の代謝に不可欠な「ヘム」という物質ができるため。このヘムこそ、ミトコンドリアで活発に動く成分なのである。先述の試験でALAと鉄を同時摂取していたのには、こんな理由があった。

 

ALA とは?

 

つまり、ALAを外から取り込む際は、Feを合わせて摂ることが大切なポイントだ。

 なお、ALAという成分自体は古くから知られていたが、その機能性に研究者が着目を始めたのは1950年代のこと。しかし、当時は大変高価な物質だったため、なかなか研究が進まなかった。それが1980年代に入って発酵法による生産方法が確立されたため、研究も盛んに。それから30年を経た今、その高い機能性と応用範囲の広さに、国内外の様々な分野で研究が進んでいる。

 ALAのポテンシャルの高さが明らかになる中で、多くの医師や専門家、企業もこの成分に注目しているようだ。7月12日には、SBIホールディングスとRIZAPグループが、ALAを中心とした「新事業構想共同発表会」を行った。そこでは、両社の社長や研究者が登壇し、ALAによるヘルスケア事業の推進や、この成分の可能性が語られた。

左:左:SBIホールディングスの北尾社長、右:RIZAPグループの瀬戸社長左:SBIホールディングス 北尾社長
右:RIZAPグループ 瀬戸社長

 かねてからALAの研究を重ねてきたSBIグループは、ALAに関する特許も多数取得。たとえば、ALAを含んだ製剤が、皮膚の表皮や角質の細胞を活性化させ、乾燥肌やシワ、たるみの予防改善につながることを実証済み。これに関する特許をアメリカほか12ヶ国で取得しているという。

 ALAは、細胞の代謝そのものに関わる成分。それだけに、糖質のみならず、肌への影響、慢性疲労、メタボリックシンドロームなど、さまざまな領域への関連性が研究されている。

 もちろん医療機関でも、この成分への研究は進んでおり、診断薬(手術前にALAを飲み、手術中に患部に特殊な光を当てることで腫瘍部位を赤く光らせる)としてはヨーロッパなどですでに販売中。日本でも脳腫瘍の術中診断薬が承認を取得し、2013年から発売が開始されている。また、治療薬としても国内外の研究機関での研究がおこなわれているという。

 加齢による体の変化は、誰もが避けては通れない問題。「最近疲れやすいな」と感じたり、「肌がたるんできたな」と悩んだりしてしまうこともあるだろう。そこにはもしかすると、細胞内の問題が絡んでいるかもしれない。老化や健康への不安がある人は、意識的にALAを摂取してみるのも良いのではないだろうか。

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