(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)
いまや老人問題に関しては第一人者の感がある和田秀樹が、『週刊文春』2024年9月5日号に、「『82歳が最も幸せ』を叶える5か条」という記事を書いている。
「82歳が最も幸せ」はどうでもいいが、それを叶える「5か条」というのが気になる。
その5か条とは
「栄養をしっかり摂って小太りを目指す」
「糖尿病を積極的に治療しない」
「降圧剤を無暗に飲まない」
「コレステロール値が高くても気にしない」
「薬は四種類までに減らす」
である。
米ダートマス大学のデービッド・ブランチフラワー教授が、2020年に世界145カ国を対象に、「人生の幸福度」と「年齢」に関する研究結果を発表した。
それによると、人生の幸福度が最低の年齢は48.3歳ということである。いま48歳の人は、最も不幸な人ということだ(文句は米教授にいってください)。
そして幸福度が最高値に達するのは、「82歳以上であること」が「判明しました」と和田氏はいう。
それが「82歳が最も幸せ」というタイトルの根拠なのだが、いやいや決して「判明」したわけではない。ひとりの教授が、そういうわけのわからん研究結果を発表した、というだけのことである。
だいたい、「幸福度」と「年齢」に相関関係があるわけがない。学者のなかには、たとえば顔の表情は何百種類もある、といった暇な研究をするものがいる。この「人生の幸福度」研究もそのひとつかと思われる。
降圧剤をやめるのにはためらいが
しかし和田氏はこの研究結果を根拠に、「日本では最も幸福なはずの高齢者が、まったく楽しそうではない」といっている。
というのも、高齢者を取り巻く間違った医療や偏見や言説に、日本の高齢者が「がんじがらめ」になっているからである。それを取り除くために、わたしが「幸福に老いるための5か条」を紹介しましょう、というわけである。
アメリカの学者の説はともかく、わたしは和田氏の、老人は自分の好きなように、気楽に暮らした方がいいですよ、という考えが基本的に好きである。
しかし、この5か条、大丈夫か。
わたしが関心があるのは、「降圧剤を無暗(むやみ)に飲まない」である。
わたしは2018年に脳梗塞にかかって以来6年間、毎日3種類の薬を飲んでおり、そのうちの1つが降圧剤である。血圧も家庭用血圧計で毎日測っている。
ところが、和田氏は今度はアメリカ医師会の研究に基づいて、降圧剤を飲んでも「20人に1人は脳卒中になる、逆に何も飲まなくても100人のうち92人は何ともない」ことがわかった、といっている。
つまり、降圧剤を飲もうと飲むまいと大差ない、というのだ。