暴露された「盗賊国家」の最大の盗賊

井上:20年以上にわたるプーチン体制の前半は、無能なエリツィン政権の下で崩壊したロシア経済を立て直したプーチン大統領の人気は絶大でした。

 ところが、政権長期化とともに、プーチン体制が専制化し、「盗賊国家(kleptocracy)」と呼ばれるほど腐敗堕落が国家機構全体にはびこりました。

 さらに、反体制派のアレクセイ・ナワリヌイ氏の組織がYouTubeに流した「プーチン宮殿」の動画によって、この盗賊国家の最大の盗賊がプーチン大統領自身だということが暴露されました。

 弾圧を恐れて国民の多くは沈黙していますが、面従腹背という形で、不満が水面下では広がっています。

 この状況で、プーチン大統領は自己の国内的権力基盤を再強化するために、西側の脅威に対してロシアの安全を保障するという口実で、ウクライナ侵攻を始めました。国民の不満を「外敵」にそらし、反プーチン派に「外敵と協力する裏切り者」の烙印を押して、国民を結束させ、自己への忠誠心を強化しようとしたのです。

 プーチン大統領の狙いからすると、欧州と米国の対立でNATOが弱体化し、無残なアフガニスタン撤退という軍事的挫折で米国が痛手を負っていた当時の情勢が、ウクライナに侵攻するタイミングとしては、非常に都合が良かったのです。

 ウクライナ侵攻の結果、米国と欧州が再結束し、中立国だったフィンランドやスウェーデンまでNATOに加盟することになり、プーチン大統領は戦略的判断を完全に間違えたわけですが。

──プーチン大統領を止められるのは、西欧ではなく、ロシア国民であり、ロシア国民に情報戦でもっと影響を与えていく戦略を取るべきだと書かれています。

井上:対露融和主義を唱える人々は、西側にだけウクライナ支援をやめさせようとします。なぜロシア国民にプーチン大統領の侵略をやめさせるよう説得しないのでしょうか。それは、ロシア人はプーチン大統領の言いなりになっていると思い込んでいるからです。

 ロシア国民はプーチン大統領の恐怖政治に抑えつけられていますが、反プーチン層は潜在的にロシアの中に存在しています。プーチン大統領もそうした心理がマグマのように存在していることを知っているから、外に敵を設定して国内の結束を固めようとしている。だからこそ、彼はこの戦争をやめるにやめられないのです。

 現在、ロシア軍の戦死者数は20万人を超えていると言われています。ことに最近は、積極的に占領地を拡大しようとしている分だけ犠牲者の数も凄まじい。

 ロシアは経済的にもかなり逼迫しています。