別の観点で考えてみましょう。食中毒を出した飲食店が「営業停止」に、競馬の騎手が進路妨害をすれば「騎乗停止」になることがあります。身近なところでは、私たちは駐車違反で反則金を取られます。要は、ルール違反をすると、その代償として金銭に関わる罰を受けることがあるのです。今回のフジテレビの問題は、駐車違反よりも軽いと思われても仕方ないのではないでしょうか。

 前回の当コラムの「人権よりも視聴率--フジテレビ問題の根源にはテレビ業界に蔓延する『マッチョイズム』がある」で、「高視聴率に貢献するタレントを崇め、特別扱いする一方で、それ以外の人たちは軽く扱われる構造上の問題がある」と述べました。そして、「テレビは重い『人権』を十分に背負ってこなかったのではないか」と指摘しました。

ジャニーズ問題が起きている中、社員の被害にずさんな対応

「人権」という意味で、特に問題視すべきなのは、旧ジャニーズ事務所の性加害問題で人権侵害について取り沙汰されていた時期に、今回の問題が同時進行していたことです。フジテレビは検証番組などで性加害を見逃していたことを反省しながら、自社の社員が性被害を受けていることに対して、ずさんな対応しかできませんでした。

 第三者委員会は、中居氏の番組出演を続けたことについて、「旧ジャニーズ事務所問題を経て人権意識が高まっている中で、視聴者やスポンサーを欺いたに等しく、強い非難に値する」と糾弾しています。

 人権擁護を推進しなければならない放送局が、人権意識があまりに希薄で、「二次加害行為があった」と言われてしまう問題を起こしたことについて、駐車違反よりも軽い「厳重注意」でよいのでしょうか?

 もっとも、だからと言って、「停波」「免許剥奪」は現実的ではありません。

 放送法第174条(放送の業務停止命令)や電波法第76条(無線局の運用停止命令等)に、停波に関わる記述はありますが、過去の国会答弁によると「極めて限定的な状況、極めて慎重な配慮での運用」という見解になっています。放送局が放送法の理念や公益に反する放送を繰り返し、そのうえ自主規制が期待できないなど、異常な放送局だと認められた場合ということです。