放送法の限界が露呈
港浩一社長(当時)、大多亮専務(同)は番組制作出身で、気脈の通じる番組編成や制作の幹部たちを中心にして、問題に対処したことが明らかになっています。そのやりとりを辿ると、被害を受けて苦悶している女性アナウンサーへの気遣いや寄り添う気持ちが感じられません。「問題は会社で起きているんじゃない。彼女の身の上に起きているんだ」と言いたくなりました。
また、女性のケアをアナウンス室に任せて、外部に情報が漏れることばかりを心配する態様は、『踊る大捜査線』の舞台となった警視庁湾岸署で「スリーアミーゴス」として描かれた署長、副署長、刑事課長の3人が、ひたすら事なかれ主義で保身に走り、狼狽する場面と重なりました。
第三者委員会はフジテレビに対して、人権問題に直面しているにもかかわらず、適切に対応できない企業統治のあり方、そして、ハラスメントが蔓延していた企業風土について断罪しました。
これを受けて、総務省はフジテレビと親会社のフジ・メディア・ホールディングスに対し、「放送法の枠組みを揺るがすものだ」などの理由で、「厳重注意」の行政指導を行いました。また、行政指導の文書でも、「放送の公共性や社会的責任に対する自覚を欠き、国民の信頼を失墜させた」と批判しています。
この厳重注意のニュースをネット記事で見た時、いかにも儀式的だと思いました。放送法に基づいた対応としては、これくらいしかできないことは頭では理解するものの、「茶番劇」でしかない印象です。厳しい言葉を並べた一方で、「厳重注意」だけでは釣り合わない気がしました。
ネットには「停波にしろ」との辛辣なコメント
ネット記事に書き込まれたコメントはもっと辛辣で、「停波にしろ」「免許を剥奪しろ」といった意見が飛び交いました。もともとテレビに対して批判的なスタンスを持っている人が多いことを割り引いても、「厳重注意」では軽いと不満を抱くのは当然でしょう。
企業であれば、社員の懲戒処分のうち、最も厳しいのが「懲戒解雇」で、「諭旨退職」「降格」「謹慎」「減給」などと軽くなっていき、最も軽いのが「厳重注意」ではないでしょうか。「厳重注意」は金銭的ダメージがありません。