正常位84.5%、前戯後戯ともになし39.8%

 このような観点から、『日本人の性生活』を紹介していこう。

 なお、同書の調査対象となった男女はすべて夫婦である。セックスをしてよいのは夫婦だけという社会倫理(あるいは建前の道徳)が厳然として存在した時代だった。

 まず興味をひくのは「結婚直後の性交回数」という調査結果である。なお、結婚直後とは、「結婚してから初めての妊娠をするまでの期間」と定義されている。

 また、回数は週単位である(月単位ではない)。

1回以下 3.9%
1~2回 8.7%
2~3回 12.6%
3~4回 13.6%
4~5回 30.1%
5~7回 31.1%

 なんと、週に5~7回がもっとも多い。全体の平均回数も週に3.9回である。

 現代のセックスレス夫婦など、とても考えられない回数といえよう。

 おそらく、江戸時代の庶民の夫婦もこのくらいの頻度でセックスをしていたであろう。もしかしたら、もっと多かったかもしれない。

図2『日本人の性生活』より 

 つぎに興味をひくのは、「性交姿勢」の調査結果である。性交姿勢とは、いうまでもないが体位のこと。

正常位 84.5%
横臥位 4.8%
女子上位 1.0%
背後位 1.0%
以上の姿勢の混合使用 8.7%

 正常位が圧倒的に多いが、これは現代でも同じであろう。それよりも注目すべきは、「女子上位」や「背後位」の体位が極端に少ないことである。

 おそらく、理由は住環境による制限であろう。子供が一緒に寝ている部屋では、たとえ真っ暗でも、そんな体位はとても実行できなかったのだ。

 正常位と横臥位は、布団にくるまっていてできる体位である。

 江戸の裏長屋住まいの夫婦も同じだったであろう。

 つぎは「性交前後の性愛技戯の有無」という調査結果である。「性愛技戯」とは見慣れない熟語だが、要するに前戯、後戯のことである。

前戯後戯ともにあり 1.0%
前戯あり後戯は時々 1.9%
前戯のみあり 42.7%
前戯時々あり後戯なし 10.7%
前戯稀にあり後戯なし 3.9%
前戯後戯ともになし 39.8%

 なんと、「前戯後戯ともになし」が39.8%もいる。夫は黙って妻にのしかかり、そのまま強引に挿入していたのだろうか。およそ5組に2組の夫婦が、前戯もなしにいきなり性交をしていた。

 あきれるといおうか、笑ってしまうといおうか。だが、おそらく江戸の夫婦も同様だったであろう。

 こんな無知で粗野な夫をいましめ、夫婦のセックスには前戯と同時に、やさしい言葉など精神面のふれあいが必要なのを説いたのが、わが国の出版史上初めてのミリオンセラー『性生活の知恵』(謝国権著、池田書店、昭和35年)である。以降、続々とセックスのハウツー本が刊行されるのだが、このことは稿を改めて書きたい。

 (編集協力:春燈社 小西眞由美)