物価目標とインフレに苦しむ国民生活とのバランスをどうとるのか

 他方、長期的にインフレ期待が2%にアンカーされているかどうかが金融政策の具体的アクションを考える際の主眼であるかのような議論もある。だが、インフレ目標の考え方からすれば、それもおかしい。

 国民が感じている目の前のインフレは、消費者物価の総合指数でみることになっている。インフレ目標の枠組みの下での金融政策は、その前年比が2%となるよう運営されるべきだろう。

 もちろん、日本銀行が拙速に動くことで、長期的な2%インフレの実現が危うくなっては元も子もない。だとしても、インフレ目標の実現と目の前のインフレに苦労している多くの国民の生活とのバランスをどう考えるか。国民経済の健全なる発展を忘れない中央銀行にとっては大事な論点のはずだ。

 消費者物価指数から色々な要素を除いて物価変動のトレンドをみようとする試みにも意味はある。しかし、それと国民にとっての物価の変動を安定させようとすることとはまた別の話である。技術的な議論を重ねることで、国民が今インフレをどう感じているかが背景となってしまうのでは本末転倒だろう。

(図表:共同通信社)

 また、マクロ経済に影響を与えるのは、政策金利だけではない。長期金利の影響も大きい。長短金利を結ぶイールドカーブの各期間に対応して存在する、信用スプレッドの状態も経済に影響を与える。現在の政策金利の水準の下で、それらを包含した金融環境全体が、現時点では最適だと判断されたからこそ、今回の金融政策決定会合では政策金利が動かなったのだろう。

 10年もの国債の流通利回りでみた長期金利は、このところ1.5%を超える水準で推移している。この水準は、日本銀行が大量の国債(3月10日現在で587.5兆円)を保有していることによって押し下げられていると言われている。

 要するに、これまでの異次元緩和の余韻が残っていて、金融環境全体としては政策金利水準だけで考える以上に緩和的になっているということだ。