金融市場からの意思表明があってもいい

 経済実態との対比で政策金利の水準を評価する際にも、この過去の金融緩和の余韻は無視できないはずである。長期的に2%程度のインフレを実現していく上で、この点をどう考えるか。日本銀行は、あまり多くは語らないかもしれない。政策金利の決定の議論は長期金利の推移の話と切り離して議論したいからだ。しかし、金融市場にとっては、これは重要な論点だ。

 こうしたことを考えると、1対1の返答がないかもしれないが、金融市場側から「そもそも長期金利に日本銀行のバランスシートのストック効果で押し下げ圧力が加わっているから、そうでない場合に比べ短期の政策金利は高めてあっても良い」といった意見表明があってもよいような気がする。

 日本経済の状況を考えるには、現在のインフレ圧力の評価がまず大事になる。この点について、日本銀行も金融市場も約3年前にインフレ率が上昇を始めた時を思い起こし、自分たちが思い違いをしていたことを改めて確認すべきだろう。

 これは筆者も決して例外ではない。思ったよりインフレ圧力は強かった。そうでなければ、目標を上回るインフレがこのように長く続くのはおかしい。

 目まぐるしく動く金融市場の中では、ついつい限界的な変化ばかりを注目しがちだ。そのため、上述のような思い違いをしていたにもかかわらず、現時点の将来の見通しは想定通りだというような判断にもなる。

 しかし、その想定とは、これまでの思い違いを少しずつ修正してきた上での想定ではないか。3年もの長い期間にわたり、当初の想定以上にインフレ圧力が強かったことをどう整理しておくべきなのか。

 仮に、もう思い違いを生んだ要素がなくなったのであれば、これからについては、新たに出てきたトランプ関税や、それを契機にさらに広がるだろうグローバルなサプライチェーンの再構築、一層進む国内労働市場のタイト化の影響などを考慮すれば良いことになる。一方、思い違いを引き起こした要素がまだ残っているなら、これからも少しずつインフレの実績は想定を上回っていくかもしれない。