増大する「不確実性」への対応が将来の繁栄を左右

 グローバルなサプライチェーンの再構築は、米中対立が激化する中で、トランプ旋風の前に始まっていた。コロナ禍というショックでみえづらくなっているところもあるが、かつてのように世界中の国々が1つのマーケットに統合され、グローバルに供給力がかなり速いスピードで拡大する時期は、もう去ったとみるべきだろう。新興国経済の所得上昇も考え合わせると、グローバルにみた需給の環境が構造的に変わってしまった可能性もある。

 第2次トランプ政権の誕生により、世界経済のあり方はさらに変わっていくだろう。

 事前の確率が全く分からないという意味で「ナイティアンの不確実性」というものがある。20世紀にシカゴ大学教授だったフランク・ナイトが提唱した概念だ。彼は、何らかのかたちで事前に確率を考えることができる事象をリスクと呼び、どういうかたちでも事前には確率が分からない事象を不確実性と呼んだ。いまの世界経済は「ナイティアンの不確実性」が大きくなっている。

 日本経済もその不確実性に挑むのであるから、総力を挙げて叡智を集結させなければならない。この点については、どの国も同じスタートラインに立っており、賢かった経済が21世紀中葉に向けて繁栄の道を歩むことになるのだろう。そういう競争をしているからこそ、中央銀行と金融市場の対話も、実のあるものでなければならない。

 目の前のインフレへの対応と長期的に2%のインフレ目標を実現することのバランス、現在の金融環境が全体として長期的に2%のインフレを実現することと整合的になっているか、そもそも現下のインフレ圧力について何か見逃している要因はないか。対話すべき重要な論点はいくつもある。

著者の新著『「経済大国」から降りる ダイナミズムを取り戻すマクロ安定化政策』(日本経済新聞出版)