3.ロシア地上軍は勝ち目ない消耗戦を継続

(1)侵攻当初の度重なる失敗がその後の大量損失につながった 

「ミリタリーバランス2021」を参考にすれば、侵攻当初、ロシア軍はウクライナ軍の戦力に対して、現役の兵員が3倍、戦車・歩兵戦闘車が5倍、火砲が2倍、戦闘機が8倍であった。

 ロシアは、スパイを大量に使う非正規戦を計画したものの多くが逮捕され、ウクライナの防空兵器を一夜にして破壊しようとする攻撃を実施したが、陣地を変換され大部分は生き残った。

 キーウ近くの空港へのロシア空挺作戦は数日間で全滅させられた。

 最も重要視したキーウ占拠の攻撃は、その手前で撤退した。当時1か月間の兵士の損失は約1.5万人、その後半年間は月約5000人、その年の末までは約1.5万人であった。

 現在の損失である月約5万人と比べると、3分の1以下の損失にもかかわらず撤退したのである。

 狙いは、東部と南部の4つの州に戦力を転用することだったと考えられていた。

 ロシアの当初の戦争構想のほとんどが、ウクライナによって潰された。ロシアの最初の大失敗なのである。

グラフ1 ロシア軍の月ごとの損失と作戦の関係

出典:ウクライナ軍参謀部の日々の発表資料をグラフにしたもの

(2)地上軍 90万人の損失を出しドネツク州境界まで到達できなかった

 ロシアがバフムトの戦いで、いわゆる「肉挽き攻撃」を行い、2023年1月から5月頃までは、月2万人の損失を出した。

 そして、やっとバフムトの占拠を達成することができた。失敗続きのロシア軍としては、小さな成功だった。

 その後、ウクライナ軍の反転攻勢の時期を除き、ロシア軍は小都市を占拠する小さな成功を達成するために、多くの犠牲を払って「肉挽き攻撃」を継続した。

 その結果、月3万人、月3.5万人、4万人、4.7万人とその犠牲数は右肩上がりとなった。

 東部・南部での攻撃、特にバフムトの攻勢(2023年1月頃)から現在(2025年3月21日)までの攻撃で、77万人(ウクライナ軍参謀本部の情報)の損失を出したといわれている。

 これだけの損失を出しながら達成した戦果は、概ね図3の○の部分だけであり、ドネツク州の境界まで到達できず、全域を占拠することはできなかったのである。

図3 バフムト侵攻当初から現在までのロシア地上軍の占拠範囲

出典:米国戦争研究所の資料に筆者がコメントを加えたもの(ロシア軍占拠地域はオレンジ色で塗られた部分)

(3)今後の攻撃達成目標は、せいぜいドネツク州の境界まで

 侵攻当初の攻撃構想は、大まかにとらえれば、第1段階がドニプロ川までとキーウ占拠、第2段階がウクライナとポーランドの国境までだったと考えられる。

 今後のロシアに、戦争を継続することによる大きな戦果を出せる希望はあるのか。

 第1段階のドニプロ川までの到達、つまり、ウクライナの3分の1以上の占領という目標が達成されるのかというと、現在の戦況進展からは、ウクライナに大異変がない限り、ほぼ100%無理であろう。

 では、現在のように大量の損失を出しながら、攻撃を続行するとすれば、ドネツク州の境界まで到達できるだろうか。

 おそらく、この達成も困難だと予想される。

図4 侵攻当初の攻撃構想と現在の攻撃構想(推測)

出典:米国戦争研究所の資料などを参考にして西村金一が作成

 ロシアは、月に兵士4万~5万人、半年で24万~30万人の損失を覚悟で攻撃し、その結果ドネツク州の境界までも到達できないとしたら、戦争を継続する意味がなくなる。無意味な損失を出すだけである。

 独裁者のプーチン大統領がやることなので誰も口出しできず、止めることができる者はいないのかもしれない。

 戦果がほとんどなく、ロシア兵の損失が24万人以上も出ると考えれば、普通なら各方面から無意味なことは止めようという声が出てくるだろう。

 今、停止するのと、半年後に停止するのとでは、独裁者といえどもプーチン大統領への影響は大きいものとなるであろう。