歌舞伎役者や浄瑠璃役者が吉原で遊ぶのを嫌がられたワケ

 ドラマでは、吉原嫌いの午之助に、吉原の祭りに参加してもらうためにはどう説得したらよいかと、蔦重が頭を悩ませる。

 午之助が吉原を嫌いになったのは、まだ売れていなかった頃に、歌舞伎役者の市川門之助(いちかわ もんのすけ)と吉原の女郎屋を訪れたところ、街から追い出されたからだった──というのがドラマの設定である。

 実際に役者の女郎買いは、あまりよい顔をされなかったらしい。というのも、歌舞伎役者や浄瑠璃役者は身分が低く、そのくせ女性から人気があるため、女郎の客となった場合に、他の客による嫉妬などあらぬトラブルも起きやすいからだ。

 ドラマでは、蔦重は一計を案じて、料理茶屋に午之助と門之助の2人を呼び出すと、花魁(おいらん)や振袖新造(ふりそでしんぞう:若い遊女の呼称)たちによって、もてなすことにした。そして頃合いを見計らって「富本節をぜひ披露してほしい」と懇願している。

 もてなしに気を良くしたのか、午之助が応じたところ、花魁たちは午之助の美声と市川門之助の舞いに感動して、涙さえ流した。予想以上のリアクションに驚く2人に対して、蔦重はこんなふうに説明している。

「座敷芸で芝居や浄瑠璃に親しむものの幼いころより廓で育ち、まことの芝居を観たことのない者がほとんど。この江戸にいながら一度も芝居を観ずこの世に別れをつげる者もおります」

 さらに蔦重から「吉原には太夫のお声を聴きたい女郎が千も二千もおります。救われる女がおります。どうか女郎たちのためにも祭りでその声を響かせてはくださいませんか」とまで言われれば、心が動かされるというものだろう。午之助たちは、吉原での祭りに参加することを決めた。