もともとは医療器具だった平賀源内の「エレキテル」

 今回は吉原パートと幕府パートが直接的にクロスオーバーすることはなかったが、幕府の日光社参が、吉原でのイベント発案につながることになった。日光社参による賑わいを見た伊藤淳史演じる大文字屋が、吉原で「俄(にわか)」という歌舞伎などを上演する祭りの開催を思いついたのである。

 蔦屋重三郎はというと、『青楼美人合姿鏡』(せいろうびじんあわせすがたかがみ)が売れ残ったために借金を抱えることになり、肩を落としていた。だが、「俄」の開催が持ち上がったことで、親父たちから頼りにされ、再び立ち上がることになる。

北尾重政・勝川春章筆『青楼美人合姿鏡』(1776年)東京国立博物館蔵、出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

 蔦重に課せられたミッションは、浄瑠璃の人気太夫・富本豊志太夫(とみもと とよしだゆう、初名は午之助)に、俄の祭りに参加してもらうというもの。面長の顔から「馬面太夫」(うまづらだゆう)とも呼ばれた午之助は、艶のある情緒的な節回しによって、大変な人気を誇っていた。

 蔦重は何かと顔の広い平賀源内に知恵を借りようとするが、なんだか忙しそうだ。源内は機械をいじくりまわしながら、何とかして火花を出そうと躍起になっている。多方面にわたる源内の活動で最もよく知られている、静電気を発生させる「エレキテル」の復元に、いよいよ乗り出したようだ。

 実際に源内は、故障した摩擦起電器を長崎に遊学した際に持ち帰り、7年余りいじくり回したという。その間に電気の原理を独学で学びながら、エレキテルの復元に成功している。

 新しいことにチャレンジするのが何より好きだった源内。ドラマでは、蔦重の相談どころではないと、アドレナリンが出まくっている様子がうまく描写されていた。

 ドラマで源内が「悪いところが治っちまう、病が治っちまう」と説明していたように、実際のエレキテルも本来は治療用に使われていた。そのため、源内も医療機器として使用を試みたものの、電流が弱く、火花がぴりぴりとする程度で、効果は見られなかったようだ。

 結果的には庶民の人気を呼ぶが、源内としてはエレキテルがただの見世物となったのは、本意ではなかったという。

 そんな天才・源内の失意もまた『べらぼう』では描かれるのだろうか。安田顕がはまり役だけに、今後の登場も楽しみである。