
NHK大河ドラマ『べらぼう』で主役を務める、江戸時代中期に吉原で生まれ育った蔦屋重三郎(つたや じゅうざぶろう)。その波瀾万丈な生涯が描かれて話題になっている。第11回「富本、仁義の馬面」では、浄瑠璃の「富本節」で人気を呼んだ富本豊志太夫(午之助)が登場。蔦重は吉原のビックイベントに午之助を呼ぼうと奔走するが……。なにかと人間くさい徳川将軍』など江戸時代の歴代将軍を解説した著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)
48年ぶりの「日光社参」で存在感を発揮した田沼意次
今回の大河ドラマ『べらぼう』では、蔦屋重三郎が活躍する「吉原パート」と、田沼意次(たぬま おきつぐ)が暗躍する「幕府パート」の2つが並行して進み、時に交わるのが特徴である。
幕府パートでは、10代将軍・家治の後は嫡男の家基が将軍になると見られており、次の世代を見据えて、それぞれの思惑が動き始めていた。今回の放送では、幕府パートに大きな進展はなかったものの、日光社参がストーリーのつかみになっている。
日光社参とは、家康が祀(まつ)られている日光東照宮への将軍家の参拝のこと。『べらぼう』の過去の放送では、綾瀬はるか演じる九郎助稲荷(くろすけいなり)が、こんなふうに説明している。
「日光社参とは、平たく言えば徳川将軍家の墓参りでございます。しかし徳川家、旗本、諸大名が連なって参詣するので莫大な費用の掛かる催しでした」
ドラマでは、財政再建を優先させたい老中の田沼意次が反対するも、ベテラン老中である松平武元(まつだいら たけちか)による働きかけによって実施することになった、としている。
だが、実際には意次こそが、張り切って日光社参に挑んだのではないかと思われる。安永5(1776)年4月、8代将軍の吉宗以来、実に48年ぶりの日光社参へと出発することになった。
すると、松平武元や松平輝高(てるたか)には数で劣るものの、意次も旗2本、槍25本、弓7張、鉄砲25挺、馬上10騎を率いて、華々しい行列に参加。しかも、意次は日光社参の準備において、とりわけ存在感を発揮したようだ。日光社参の後に、その功労がたたえられて、意次だけ7000石もの加増がなされている。
今後のドラマの展開としては、台頭する意次に対して、松平武元は依然として対立関係を続けるのだろうか。当時、大名たちが受け取った書状などを見ると、意次と武元はよく連携していたようなので、ドラマでも意外と協調していく可能性もある。
引き続き、幕府パートにおける意次を取り巻く人間関係に注目したい。