
(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
米国のトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領による首脳会談の決裂シーンは、韓国の国民に大きな衝撃を与えた。韓国の代表的革新系メディアの「ハンギョレ新聞」は、決裂の模様を克明に紹介し、社説でトランプ大統領に対する警戒を呼び掛けた。
韓国の革新系の人々は、米国の圧力を避け、北朝鮮や中国との関係でフリーハンドを持ちたいとの思いを非常に強く持っている。と同時に、仮に韓国の次期大統領選挙で「共に民主党」の李在明代表が勝利した場合、韓国もウクライナと同様に、米国から見放されるのではないかとの懸念を抱き始めている。北朝鮮に対する安全保障が何より重要な韓国にとって、軍事面での米国の協力が失われることは国家の死活問題に直結する。
そのため、これまで反米志向を鮮明にしてきた李在明代表の「大統領就任」が現実味を帯びてくるのに従い、逆に国民が「革新離れ」に動き始める可能性がある。その懸念を共に民主党は抱き始めているはずである。
最新の世論調査では政権交代を望む人の割合がまた増え出しているとはいえ、弾劾プロセスに入った後に「国民の力」への支持が共に民主党のそれを上回った時期があった。世論はまだ大きく揺れ動き続けている状況だ。
憲法裁判所での弾劾審判は2月25日に結審した。3月中にあると見込まれている判決については、革新系裁判官の「数の力」で押しきれるかもしれないが、大統領選になった場合の情勢は視界不良と言わざるを得ない。トランプ政権の対韓姿勢が大きな変数となる可能性がある。
尹大統領弾劾と大統領選挙を強引に画策する革新系
韓国憲法裁は、2月25日、尹大統領の弾劾に関する尹氏本人と国会側それぞれによる最終弁論を行い、結審した。今後の注目点は、3月中旬ごろ最高裁の判決が出せるかどうか、そしてそこで弾劾の判決が出されるかどうか、に移っている。弾劾判決が出れば、大統領選が行われることになる。

憲法裁よる弾劾は、定員9人のうちの6人が弾劾に賛成すれば可決されるが、現在は1名欠員で総勢8人なので、3人が反対すれば棄却される。
弾劾審判の審理の進め方については与党「国民の力」や保守系団体から強い非難がなされており、世論の憲法裁への信頼度は昨年12月と比べ大幅に低下している(信頼している52%、信頼していない43%。本来、憲法裁は最も信頼されるべき国家機関のはずなのだが)。
この不信感も革新系に対する批判として跳ね返ってくるだろう。
というのも、裁判官8人のうち3人が革新系裁判官の勉強会「ウリ法研究会」所属であり(特に文炯培・憲法裁所長権限代行はウリ法研究会会長であり、李在明氏とも昵懇の関係)、李在明氏の大統領選出馬を可能にするため急いで裁判手続きを進めているからである。
弾劾手続きによれば、弾劾法案の国会可決から6カ月以内に判決を出すよう定められている。憲法裁は慎重に審理を尽くすことよりも早急に判決を出すことを重視してきた。すでに最終弁論が行われ結審したが、今後の裁判官による評議で判決内容を決定することになる。