ところが今回、そんなことは言っていられなくなった。ルールを見直して流通が目詰まりを起こした際にも主食向けに売却できるようにし、江藤拓農相は2月18日の会見で「備蓄米が少しでも早く消費者に届くよう手続きの迅速化を図りたい」と方針転換した。

出所:農林水産省、注:1990〜2005年は価格センター、2006年以降は相対価格

作付面積、主食用米が減り続けたのに飼料米は激増

 世界的な食料需要の増大と地政学リスク、世界の分断、頻発する異常気象に急速な円安、鶏インフルエンザなどの伝染病、輸送現場での人手不足――食料インフレの要因は複雑に絡み合う。

 日本を襲う食料インフレが顕著になったのは、ロシアがウクライナに侵攻した22年からだ。両国の生産・輸出量が多い小麦やトウモロコシ、食料油(ヒマワリ油)の国際価格が高騰。政府が全量管理する輸入小麦の売り渡し価格を抑制する措置をとってもパンなどの食品値上げが広がった。食品そのものだけでなく、必要な資材も上がった。ロシアやベラルーシの供給が多い肥料や原油価格の大幅高は日本の農業生産コストを押し上げた。

 その後、小麦などの価格高騰はひとまず収まった。肥料価格はウクライナ危機前に比べまだ高いが、原油高も一服した。ところが、今度は円安によって輸入食品価格が上がり、猛暑などの国内要因でコメ、生鮮野菜などの値上がりが加速した。

 日本の場合は、さらに別の要因も加わる。コメ高騰の背景には農業政策の行き詰まりも見逃せない。

 国内のコメ消費量は減り続けてきた。少子高齢化や食生活の変化で需要が細ってきたからだ。政府のコメ政策は1970年代以降、一貫して主食米の余剰と値崩れを防ぐことに重点を置いた。

 その結果、24年産の主食用米の作付面積は約126万ヘクタールと08年産に比べ2割強も縮小した。18年に減反政策を廃止したが、補助金を利用した生産調整は続く。主食用米の作付面積が小さくなった一方、08年産ではわずか1000ヘクタールだった飼料米の作付面積は、22年産では14万ヘクタール台まで拡大。24年産でも10万ヘクタール近い。主食用米からの転作には補助金の支援があることが背景にある。