洒落本『契情買虎之巻(けいせいかいとらのまき)』

 安永7年(1778)正月に刊行された、田螺金魚(たにしきんぎょ)著の洒落本『契情買虎之巻』は、松葉屋は「松田屋」、鳥山検校は「桐山大尽」と名前は少し違うが、五代目・瀬川の身請け事件をモデルにしたといわれている。

『契情買虎之巻』の概要は、以下の通りだ。

 16歳の千石を領する者の娘・おやゑが18歳の美少年で二千石の家の末息子・生駒幸次郎と相思相愛の仲となるも、親の反対にあい、駆け落ちする。

 ところが、幸次郎は病に罹ってしまう。

 おやゑは幸次郎の治療費を得るため、吉原の松田屋で遊女となり、瀬川と称した。

 しかし、幸次郎は若くして、この世を去っている。

 その後、幸次郎に生き写しの客・五郷と馴染んだが、五郷は養母の奸計により、座敷牢に閉じ込められ、吉原通いを止めさせられた。

 そんな時、金融業の桐山大尽が現われ、瀬川を強引に身請けする。

 だが、瀬川は身請けされても、桐山大尽の意に従わなかった。

 桐山大尽の従者・軍次は、五郷に会わせてやると欺き、瀬川を誘い出す。

 軍次も瀬川に手を出そうとするが、瀬川はきっぱりと拒絶した。

 すると、軍次は「五郷は死んだ」と偽りを告げる。

 だが、瀬川はこれを信じた。

 瀬川はショックのあまり、身ごもっていた五郷の子を産み落とし、息絶えてしまう。

 そして、亡霊となって五郷のもとに現われ、二人の間に誕生した子を託すのだった。

 この『契情買虎之巻』は、後世、人情本の祖と謳われる。