働いていたのは地元の住民で、夫婦だという。この町で生まれ育ったそうだ。

「逃げようとは思わないんですか」と聞くと、店員さんは「思わない。前線まで距離がある。大丈夫だ」と答えた。「生まれ育った町を離れたくない。ここが自分の場所なんだ」と説明してくれた。

 しかし、ロシアの占領地域まであまりにも近すぎる。

 反応に困っていると、「ロシア軍が2、3キロまで迫ったら考える」と苦笑いしながら付け加えた。

町で一件だけ営業していた商店を経営する男性。奥の窓は昨年5月の攻撃で吹き飛んだという(筆者撮影)
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 店主によれば、今年の5月に向かいの建物にロシア軍の攻撃があり、住民が亡くなったという。この店も窓が吹き飛ばされ、自分で修繕しなければならなかったと話してくれた。

「この町に取材に来る人はいますか?」と尋ねた。「全面侵略が始まった2022年はいろんなメディアが来た。それ以降はいない。今年は君が初めてだ」と言われた。国際的な関心が薄れていることを感じさせた。

「支援は要らない、ただロシアを追いやって!」

 市場の方にも行ってみた。皆、突然現れた外国人を不審げに眺めている。

 衣類を売っていた女性に写真を撮ってもいいか、と尋ねたが、やめて、と言われる。「どこで何が起こるか分からない。怖い」と警戒心を隠さなかった。

 周辺に軍人が住んでいるのは分かったが、こんな環境でどれくらい利益がでるのだろうか。どうやって生活をしているのか、と不思議になる。

「今、必要な支援は何ですか?」と聞いてみる。

 すると女性は突然、目に涙を浮かべた。

「ロシアを追いやって!! 私には何もいらない!」と急に感情的になって叫ぶように言った。