一軒だけ営業していた商店
周囲一帯は廃墟と化していた。なにもなさそうに見えたが、街の中心地と思われる交差点のようなところに行くと、店が開いていた。寒いにもかかわらず、屋外の小さな市場のようなものも見える。いったい誰が買うのだろうか、と興味をひかれた。
小さな市場のようなところで売っているのは、衣料品や洗剤、充電ケーブルなどの日用品のようだ。働いているのは女性が多いように見える。
店や市場があるのだから、住んでいる人もいるのだろう。その住民に話を聞きたいのだが、周りはあまりにも人気(ひとけ)のない廃墟だったので、たじろいでしまった。人々はいったいどんな状況でここに住んでいるのか、筆者の想像の及ばない世界のような気がした。
連れてきてくれた友人の車に座ったまま周囲を観察すると、店や市場にぽつりぽつりと軍人が訪れている。なるほど、周辺に住む軍人向けに商売をすることで成り立っているのだな、と理解した。
一つだけ営業していた商店は恐らく食料品を売っているのだろう。店から、テイクアウトのコーヒーを持った軍人が出てきた。
コーヒーを買って、飲みながら店員さんと話をしよう。そうすれば手持ち無沙汰にならない――そう思い至った。
入ってみた店内は思ったより広かった。暮らしに必要最低限の物は揃いそうだ。