「一番苦しんでいる方々」の負担が軽減されない修正案

――その後、厚生労働省は一部修正案を提示しましたね。

天野 3団体が呼びかけた〈「高額療養費制度引き上げ反対」石破首相・福岡厚生労働大臣にがんや難病患者・家族の切実な声を届けたい〉という署名には13万5287筆が集まりました*2。こうした当事者の〈声〉が「ゼロ回答」を「一部見直し」まで動かしたのは、非常に大きなことです。

 10日に提案された修正案は、私たちが要望した「多数回該当の引き上げを行わないこと」に対して、これまで通り限度額を引き上げた上で、6回以上限度額を超えた場合に、7回目以降は限度額を引き下げるというものです。

*2  〈「高額療養費制度引き上げ反対」石破首相・福岡厚生労働大臣にがんや難病患者・家族の切実な声を届けたい〉ウェブサイトより

高額療養費制度を巡り、福岡厚労相(右)と面会する全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長(中央)ら=2月12日午後、厚労省(写真:共同通信社)
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――それでは、病状によって高額薬剤を休薬したり、入院の有無で限度額に届かない月が発生する度に「振り出しに戻る」ことになります。

天野 その通りです。分子標的薬の長期処方を受ける慢性骨髄性白血病や関節リウマチなど慢性疾患の患者さん、進行がんの広がりをなんとか抑えようとしている患者さんたちの負担軽減にまったくつながっておらず、長期処方の患者さんなどが多数回該当から外れてしまいます。

 14日には福岡厚労働大臣との面会が実現し、そこでようやく多数回該当の負担増を見送ることを伝えられ、部分的に私たちの要望が認められたと考えています。しかし、全体の負担増は変わりません。

 未来にわたって高額療養費制度の堅持、国民皆保険の維持と保険料の軽減は、確かに重要なもので何らかの対策を講じなければならないでしょう。しかし、高額療養費制度の負担上限額引き上げは、到底受け入れられるものではありません。引き続き一旦凍結を検討するように要望を行っていきます。

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 石破総理は17日の衆議院予算委員会において、多数回該当の自己負担限度額の見直しを現行のまま据え置くとした。しかし、全体の引き上げについては政府方針を続行する。

 総理は「政府として誠心誠意対応したのが今回の結論だ」と答弁したが、求められているのはテトリスのように金額を当てはめるパズルではなく、医療制度と国民皆保険制度、国民の生活の未来を見通す政策だ。そこには多くの命がかかっていることを忘れてはならない。