なぜロシアはEUにLNGを輸出し続けるのか?
DUHの推計の通り、EUの2024年のロシア産LNGの実際の輸入量は前年を大きく超えたのかもしれない。しかし、どの程度増えたかという話は、あまり重要ではない。重要なのは、それだけ天然ガスの脱ロシア化は難しいという事実の解明である。
そこで、EUによるロシア産LNGの問題に関して、需給の両面から改めて整理してみたい。
まず、なぜロシアがLNGをEU向けに輸出し続けているのかという素朴な疑問から考えてみたい。
ロシアはすでに述べたEUに対する逆制裁措置として、ロシアからベラルーシを経由してポーランドやドイツに天然ガスを輸送するヤマルパイプラインを停止した。ロシアとドイツをダイレクトに結ぶノルドストリームも稼働していない。年明けには、ウクライナ経由のパイプラインによる天然ガスの輸送も停止した。
もっとも、ウクライナ経由の天然ガス輸送について、ロシア側は輸送契約を5年間延長する姿勢を強調していた。ところが、ロシアがEUへのガス輸出で外貨を得ることができないようにするため、ウクライナが契約延長を拒絶したのである。代わりにウクライナは年間約8億ドルに相当する中継料収入を失った。
このウクライナルートの遮断により、パイプラインによるロシア産の天然ガスの供給ルートは、黒海を横断してトルコに抜けるトルコストリームだけとなった。このトルコストリームを経由する天然ガスの供給に対しても、ロシアは継続の意思を示している。つまり、ロシアはその実として、EU向けの天然ガスの輸出に前向きなのである。
その最大の理由は、安定財源の確保にあると考えられる。ロシアは主に、国営ガスプロムを通じてガスを輸出するが、同社の利益の多くは国庫に納付されるためだ。
中国向けの輸出はそれほど増えていないため、安定した財源を確保するためにロシアはEUにガスをできるだけ輸出したい。ロシアも背に腹は代えられないというところだろう。