今後もロシア産LNGを受け入れるEU

 現実的には、経済制裁を科されたロシアが、タンカーや船員を今まで以上に確保することは困難と考えられるため、自国産LNGの輸出をEU向けに増やすにしても限度がある。

 ただいずれにせよ、安定した財源を確保したいロシアは、このルートを維持することに腐心すると予想される。ロシア側からのLNG輸出を減らす理由はないのではないか。

 またEUも、足元においては脱炭素化の揺り戻しもあるため、ガス需要は削減されるとしても緩慢なテンポとなるだろう。それに、ロシアに代わる代替ルートの開拓には時間がかかるし、進んだとしても価格が安定しなければ、ロシア産LNGの優位性は揺るがない。

 一連の流れは、政治の理屈では経済原理が覆せないという現実を雄弁に物語っている。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。