なぜEUの事業者はロシア産LNGを輸入し続けるのか?
他方で、なぜEUの事業者はロシア産LNGを輸入し続けるのだろうか。結局、価格が安いからこそ、EUの事業者はロシア産LNGを輸入するのだと考えられる。
これまでの経緯から、ロシアは既にEUの天然ガス市場におけるプライスリーダーとしての地位を失っており、自国産LNGの価格を他国産よりも割り引いて設定している可能性が高い。
EUの天然ガス価格は需要期を迎えていることもあり、メガワット時当たり50ユーロを超える水準で推移している(図表2)。ロシアショック直後に比べれば安定したが、コロナショック前の2019年の平均水準が14ユーロだったことに比べると、3倍以上の高値だ。EUの事業者にとって安価なロシア産LNGは魅力的だろう。
【図表2 欧州の天然ガス価格(オランダTTF先物)】

つまり、EUのロシア産LNGに対する需要が根強いため、ロシアもガス輸出の機会を維持したいものと整理される。ゆえに、ウクライナがロシアとの間でEU向けの天然ガス輸送契約を打ち切ったことで、EUが輸入するロシア産LNGの量がかえって増えるか、あるいは増えないまでも高止まりし続ける結果がもたらされると予想される。
再びユーロスタットのデータを確認すると、EUが輸入するロシア産ガスの量は、ウクライナ侵攻後に月当たり500~600万トンから、同200万トン前後にまで下振れしたことが分かる(図表3)。
言い換えれば、脱ロシア化のかけ声をあげながらも、EUは月当たり200万トン前後(つまり年間で2400万トン程度)のロシア産ガスを2年以上にわたって輸入してきたことになる。
【図表3 EUが輸入するロシア産ガスの輸送経路別内訳】

見方を変えれば、EUは最低でも月当たり200万トン(年間2400万トン)前後のロシア産ガスを依然として欲している。ウクライナを経由するパイプラインによる供給ルートが年末で遮断されたため、今後EUは、その他の代替ルートで天然ガスを得る必要がある。もちろん、ロシア産LNGのタンカーによる輸入も代替ルートの選択肢の一つになる。