出版禁止と掲載データの削除を命じられた『全国部落調査』
角岡:戦前から日本政府は部落に対する補助事業を行ってきました。その対象となる地区を明らかにするための調査を実施しました。1935年にも全国的な調査を実施し、その結果を翌1936年に『全国部落調査』として刊行しました。
この『全国部落調査』の内容を、そのままインターネット上で公開した人物がいました。2016年には、その内容を復刻版として発刊する旨をネット上で公表しています。
これを受けて、部落解放同盟は横浜地方裁判所に出版差し止めと、ネットへの掲載禁止の仮処分を申し立てました。加えて、一部の同盟員がプライバシーを侵害されたとして東京地方裁判所に訴えました。
横浜地裁は、請求を受け、出版禁止とネットに掲載されたデータの削除を命じる仮処分を下しました。被告はそれを不服として、東京高等裁判所に抗告を申し立てましたが却下されています。
東京地裁も、2021年9月に『全国部落調査』のデータをネット上に公表すること、およびその内容を書籍として出版することはプライバシーを違法に侵害するとして、出版、公開の差し止めを命じました。
被告は東京高等裁判所に控訴したものの、2023年6月には一審と同様、出版禁止と掲載データの削除を命じました。争いは最高裁判所にまでもつれ込みましたが、2024年12月には最高裁は二審と同じ決定を下しました。
──日本政府は2016年に「部落差別の解消の推進に関する法律」を制定・施行しました。これはどのような法律なのでしょうか。

角岡:2002年に30年余りの間続いた同和対策事業が終了しました。それと同時に日本から部落問題はなくなったという風潮が現れ、それが長らく続きました。
しかし、インターネットの普及によっていろいろな情報がさらされるようになり、国や行政、また部落解放同盟のような運動団体、さらには個人ももう一度気を引き締めようという空気になりました。それを反映させたのが、この法律だと私は認識しています。
この法律では、部落差別がいまだに存在することを明言した上で、国や各自治体の相談体制の充実が呼び掛けられました。
特に、インターネット上で差別を助長するような内容の書き込みがされている点を課題として挙げ、法務省としてはそのような情報の削除をプロバイダなどに要請する対応を行ってきたことを強調しました。
この法律には罰則規定はありませんが、各自治体は積極的に取り組んでいるという印象を受けます。実際に、以前と比較して最近では、部落に関する差別的な情報をネット上で見ることは少なくなったと感じています。