5.文在寅政権の謀略
(1)南北融和の印象づくりのための文在寅政権の謀略
金正恩氏の妹である金与正氏は、南北首脳会談の2か月前、平昌オリンピック時に韓国に入り、視察を行った。
その際、「文在寅大統領が金正恩委員長と会えば昔(金大中や廬武鉉の両大統領が実施した南北首脳会談)のように迅速に南北関係が発展できる」と述べた。
また、「文在寅大統領と早期に会う用意があります。都合のいいときに来てください」と金正恩氏のメッセージを口頭で伝えた。
これを受けて、韓国統一部長官(当時)は「誠実な金与正さんが、(韓国との会談を)仲介しているので、今回は信用できる。北の最高指導層に金与正副部長のような信頼できる人がいることは幸いだ」といった印象を述べた。
北朝鮮は韓国に対して悪意ある行為を長年実施してきたわけだが、韓国文在寅政権は、「金正恩とその妹は交渉相手として信頼できる」「南北の話し合いで南北融和ができる」という印象を、韓国国民に対して持たせたかったものと考える。
(2)トランプ氏を交渉に引き出すための謀略があった可能性
金正恩氏は平壌を訪問した韓国の特使団に、「トランプ米大統領と会って話し合いをすれば、大きな成果を出せる」と伝えた。
これを受けて、特使の鄭義溶氏は、トランプ氏に「金委員長は率直に話をするし、誠意を感じた。過去の過ちを繰り返してはならないが、金正恩委員長に対する我々(韓国)の判断を受け入れ、今回のチャンスを逃さないでほしい」とトランプ大統領に伝わるように呼びかけた。
金正恩氏は交渉ができる人間だと思わせた。
「今回のチャンスを逃さないでほしい」と、交渉の機会は今しかないと思わせ呼びかけたのだ。
トランプ氏が成果を欲しがっていることを知ったうえで、金正恩氏は韓国の特使団に、「今がチャンスですよ」と煽り、「会って話し合いをすれば大きな成果を出せる」と発言したのだ。
当時、北朝鮮の核ミサイル脅威が高まっているにもかかわらず、文在寅政権は、北朝鮮が核の凍結・廃棄に同意する可能性があり、その意向があるという誤ったシグナルを作り出した。
そして、南北融和、米朝合意ができるという誤った期待を韓国国民に持たせたのである。
金正恩氏は信頼できる、話し合いができると、韓国国民や米トランプ大統領に熱心に伝えたことは、誤ったシグナルであり、実際には裏切り行為である。
これこそ謀略行為であると考えるべきであろう。