3.南北融和は敵に塩を送っただけ

 北朝鮮の軍事的脅威が飛躍的に高まる中、2016年12月、太陽政策を掲げた文在寅氏大統領に就任し、2022年5月に5年間の任期を全うした。

 文在寅氏は就任演説で、緊張の高まる北朝鮮核問題の解決のため、「必要ならば直ちにワシントンに飛んで行く。北京と東京にも行き、条件が揃えば平壌にも行く」と宣言した。

 韓国国民に、北朝鮮が南北融和に進むのではないかという大きな期待を抱かせた。

 2018年4月27日、文在寅氏と金正恩氏は板門店において11年ぶりに南北首脳会談を実施した。

 北朝鮮の独裁者・金正恩氏と文在寅氏が笑顔で握手し、金正恩氏が軍事境界線を超えて韓国側に入るという朝鮮半島の歴史的な一場面であった。

 南北融和が進んでいるように見えたが、実際には政治的パフォーマンスでしかなかった。

 金正恩氏としては、北朝鮮が陰で進める核ミサイル開発を隠して援助を引き出すためのものであり、文在寅氏としては韓国民に南北統一の期待を抱かせるものであった。

 この行為は一見、融和に見えた。

 しかし、実質的に北朝鮮による核兵器開発の凍結を裏付けるものは、小さなかけらほどもなかった。

 この時に発表した板門店宣言は、朝鮮半島の完全な非核化を南北の共同目標とし積極的に努力すること、朝鮮戦争の休戦協定から平和協定を締結して、恒久的な平和体制に向けた会談を積極的に推進すること、軍事境界線一帯での敵対行為を中止して非武装地帯(DMZ)を実質的な「平和地帯」とする内容であった。

 2018年9月、文在寅氏は平壌を訪問し、金正恩氏と3回目の南北首脳会談を行った。

 非武装地帯をはじめとする対峙地域での軍事的な敵対関係終息を朝鮮半島の全地域での実質的な戦争の危険の除去と根本的な敵対関係の解消につなげていくことを話し合い、金正恩氏が近くソウルを訪問することなどを内容とする共同宣言を発表した。

 国民目線からすれば、文在寅氏による南北融和のための努力には期待したくなる。

 だが、北朝鮮が過去に行ってきた悪意ある行為、および核等を放棄させるための交渉の都度、米韓日を騙してきたことを考えると、北朝鮮が本気で核を放棄すると信じるに足る証拠は何もなかった。

 そのため、放棄する姿勢を示すだけの謀略だと考えるのが当然である。

 北朝鮮が「放棄するかもしれないと韓国の国民に期待させた」ことは結局、国民の心理を弄んだだけだった。