大統領令を阻止するもう一つの方法
中林:加えて、もう一つ付け加えておきたいのですが、大統領令を阻止する方法はまだあります。あえて、大統領令の内容を議会で立法させるのです。この時、そこに有効期限を入れてしまうのです。つまり時限立法にしてしまう。
ジョンソン大統領が出した大統領令11399「インディアンの機会に関する全国評議会の設立」というものがありました。これは後に、ニクソン大統領の大統領令11688「インディアンの機会全国評議会の会員に関する大統領令第11399号の改正」に修正されて、1969年に議会が歳出法として成立させたのですが、そこに5年間の期限を付けました。5年間だけこの予算は有効ということです。
こうした予算を付ける権限があるのも議会です。
日本では衆議院と参議院のどちらかが野党が多数になった場合に「ねじれ国会」と呼びますが、アメリカでは上院か下院のどちらかで野党の議席が過半数になった場合、「divided government」と呼びます。日本語に直すと「分割政府」です。英語では「ねじれ議会」とは呼びませんが、日本ではたまにそういう表現を使う人がいて、これは正しくありません。
アメリカでは、議会も含めて政府(ガバメント)と考えるために(正確には日本の政府とアメリカの政府は違うのですが)「divided government」と呼ぶ。なぜ議会が政府の一部なのかというと、議会が法律を作り予算を決めるからです。これらは大統領の権限ではないのです。
中林美恵子(なかばやし・みえこ)
早稲田大学教授
埼玉県深谷市生まれ。大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了、博士(国際公共政策)。米国ワシントン州立大学大学院政治学部修士課程修了、修士(政治学)。米国在住14年間のうち、永住権を得て1992年にアメリカ連邦議会・上院予算委員会スタッフ(米連邦公務員)として正規採用され、約10年にわたり米国家予算編成に携わる。
『日経ウーマン』誌の政治部門「1994年ウーマン・オブ・ザ・イヤー」受賞、1996年アトランタ・オリンピック聖火ランナー。2002年に帰国し、独立行政法人・経済産業研究所研究員、跡見学園女子大学准教授、米ジョンズ・ホプキンス大学客員スカラー、中国人民大学招聘教授、衆議院議員(2009-2012)などを経て、2013年より早稲田大学准教授、2017年より教授(社会科学総合学術院社会科学部および留学センター)。2024年よりWASEDA USA理事・所長を兼務。
長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。