トランプ大統領就任の昼食会に出席したメタCEOのザッカーバーグ氏、同社はDEI推進を廃止する方針を示した(写真:ロイター/アフロ)

トランプ大統領は連邦政府のDEI(多様性、公正性、包括性)プログラムを終了する大統領令に署名した。バイデン前大統領が推し進めた採用時に人種やジェンダーの多様性を重視する施策から「能力主義(メリトクラシー)」に基づいて人材を登用する方針に移行するとみられる。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)や『世界はなぜ地獄になるのか』(小学館新書)で、“きれいごと”の脆弱性を突いてきた橘玲氏はアメリカの大転換をどのように分析しているのだろうか。2回に分けてお届けする。

(湯浅大輝:フリージャーナリスト)

>>前編:トランプ大統領が葬った「DEI」、多様性推進の効果はあったのか?コンサルにカモにされていたという不都合な真実

「キャンセル」されるリスクが減る?

──トランプ大統領の就任を受けてウォルマートやメタなどの大企業が続々とDEIの方針を見直しているのは、実は企業にとっても好都合だから、ということですか。

橘玲氏(以下、敬称略):ニューヨーク・ポストの記事で明らかになったように、「多様性コンサル」にお金を払うのがバカバカしいことを企業はとうに気づいていたんだと思います。しかしこれまでは、やめたくても「キャンセル」がこわくてやめられなかった。

── 国としての方針となったのだから、DEI推進の旗を下ろしてもいわゆる「キャンセルカルチャー」のターゲットにされなくてすむ、ということですね。

橘:2000年代に入ってから、アメリカではウォーク(Woke:社会問題に意識高い系)やSJW(Social Justice Warrior:社会正義の戦士)といった左派(レフト)の社会活動家が、政治的に不適切な(ポリコレのコードに反する)言動をした企業や個人をSNSで批判・炎上させ、次々とキャンセル、つまり社会的な地位を奪って葬り去ろうとしてきました。

 ウォークやSJWから多様性への配慮がないと見なされると、不買運動を起こされたり、ブランドイメージを毀損されたりしてしまいます。ネット空間では一度炎上騒ぎが起きると、根も歯もない話が独り歩きしてしまいますから、企業としては防衛策として「当社はDEI推進にちからを入れています」「これだけ多様性研修を実施しています」というような“アリバイ”をつくるしかなかった。

 ところがトランプが大統領令に署名したことで、企業としては「DEIへの取り組みを熱心にしなくてもキャンセルされることはない」と安心できるようになった。アファーマティブ・アクションが市民の平等に反するという最高裁判決が出ただけでなく、アメリカ大統領が「DEIをやめろ」と命じているのですから。

──この先、トランプ大統領の4年間の任期中に、DEIに対する考え方は大きく変わるのでしょうか。