ルールを守らない質問者がいても、司会を務めた上野陽一執行役員広報局長が注意することはなかったためでもあるが、筆者にはその対応は意図的にも見えた。

一部記者によるルール度外視質問、フジテレビが制御しなかった理由

 もちろん前回の轍を踏まないよう、会見をフルオープン状態にせざるを得ないという事情もあっただろう。その意味では、どんな質問者のどんな質問にも答える態度を見せなければならない会見だった。ただ、それだけではないような感覚があった。

 ひな壇に登場したフジの上層部役員たちは記者からの辛辣な質問に対し、低姿勢を変えることなく、お詫びの言葉とともにひたすら頭を下げ続けた。まるで相手のパンチをノーガードで受けまくるボクサーを見ているような光景であった。

記者会見で頭を下げるフジテレビの社長辞任を発表した港浩一氏(中央)ら。右は会長辞任の嘉納修治氏(写真:共同通信社)
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 ただし、「2人のプライバシーの関係から話すことができない。お答えできない」とトラブルの内容には絶対に踏み込まないというフジ側の姿勢は徹底していた。そこだけは譲らず、あとはひたすら頭を下げた。これは一種の作戦だったのではないだろうか。

 つまり、打たれっぱなしの記者会見を視聴者や株主および広告主に印象づけることによって同情を呼ぶ“効果”を想定していたのではないか。

 今回の記者会見の開催は、もともとは米ファンド会社からの要望に応じてのことだった。そして、CM出稿の差し止め状況にあるフジの経営陣にとって、状況を破壊するために、“禊”の儀式が必要だった。であれば、記者たちから容赦のない罵声を浴び、ひたすら頭を下げる画は、まさに禊の場面としてはうってつけではないか――。

 筆者の想像が当たっているとしたら、フジ上層部がこの会見で見据えていたのは目の前の質問者たちではなかったということである。彼らの脳裏に浮かんでいたのは、放送をするうえで最も大切な広告主、そして親会社フジ・メディア・ホールディングスの株主らであったということだろう。長時間の会見にも真摯に応じ、丁寧な説明、平身低頭なお詫び。それがスポンサーや株主に対する最低限の誠意のつもりだったのではないか。

深夜に及ぶ記者会見で目元に手をやるフジテレビ社長を辞任した港浩一氏(写真:共同通信社)
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