「みんなの森」を舞台に生まれる新しい“学校”

 尾鷲市がゼロカーボンシティ宣言を出した目的は、脱炭素を軸に、林業や漁業といった第一次産業の再興を図ることにあった。ただ、第一次産業を実際に再生させようと思えば、林業や漁業に従事する担い手の存在が不可欠だ。

 この担い手の問題をゼロカーボンに置き換えれば、それは教育である。

 そこで、2050年の脱炭素に向け、子どもたちが気候変動問題や脱炭素について理解する場を作り、尾鷲の自然の中で自主性や生きる力、問題解決力などを身につけてもらう。そうした子どもたちを将来の担い手につなげるという構想である。

 現在は学校教育法第一条に定められた「一条校」ではなく、今の小中学生の年代を対象にしたフリースクールでの開校を目指している。在学中だけでなく、卒業後も企業に所属しながら学び続けられるような学校にしていくという。

Network Schoolについて(Network School)
Local Coopとは
(Local Coop)

 このように、森づくりを始めた当初の活動原資は企業版ふるさと納税である。だが、こうした森づくりと並行して、芝山はSILとJ-クレジットの活用についても検討を進めていた。

 企業版ふるさと納税は地域にとって重要な資金調達の手段だが、毎回、1回限りのワンショットである。それに対して、認証対象期間であればカーボンクレジットはずっと創出される。申請や認証の手間はかかるが、継続的な資金源になり得るという点は大きい。

 そうしたメリットがあったため、尾鷲市は2022年5月にJ-クレジットの申請に向けた作業を開始。その後、プロジェクト計画に基づいて排出削減量や吸収量を計測・算定し、実際に算出した量が吸収されているかについて検証を進めた。

 こうして生み出されたクレジットは、Local Coopを推進するため、NCLと三ッ輪HD、TART(NEORT株式会社)が設立した「paramita(パラミタ)」がクレジットの販売先を開拓している。

*TARTはSocial Token発行やコンテンツ産業におけるNFT活用をサポートしている企業で、林が手がけた旧山古志村のNishikigoi NFTにも関わっている。

 まだクレジットは認証されていないため、契約レベルだが、ヤフーは年間500トン分のクレジットを10年間、購入すると発表済みだ。また、サカイ引越センターや求人情報サービスを手がけるディップもクレジットの購入を検討している。

 クレジットの購入を考える企業の狙いはさまざまだ。(続く)

篠原 匡(しのはら・ただし)
編集者、ジャーナリスト、蛙企画代表取締役
1999年慶応大学商学部卒業、日経BPに入社。日経ビジネス記者や日経ビジネスオンライン記者、日経ビジネスクロスメディア編集長、日経ビジネスニューヨーク支局長、日経ビジネス副編集長を経て、2020年4月に独立。著書に、『人生は選べる ハッシャダイソーシャルの1500日』(朝日新聞出版)、『神山 地域再生の教科書』(ダイヤモンド社)、『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』(朝日新聞出版)
など。『誰も断らない 神奈川県座間市生活援護課』で生協総研賞、『神山 地域再生の教科書』で不動産協会賞を受賞。