森づくりのきっかけになった企業版ふるさと納税

 SILは、企業と自治体が垣根を越えて共創するためのプラットフォームで、持続可能な未来社会を実現するためのソリューションの開発と実装を目的に立ち上げられたコンソーシアムである。

 芝山のような自治体関係者の他に、NCLの林や三ッ輪ホールディングス(HD)の取締役経営戦略本部長を務める大澤哲也など企業関係者がボランティアで参画している。

 芝山によると、最初のうちは尾鷲の置かれた状況などを話すだけだったが、そうこうするうちに、一つの動きが出てきた。それは、当時のヤフー(現LINEヤフー)が2021年1月に発表した「地域カーボンニュートラル促進プロジェクト」である。

 これは、脱炭素化と再生可能エネルギーの促進のため、企業版ふるさと納税を活用し、脱炭素に向けた地方創生の優れた取り組みに寄付するというもの。このプロジェクトが林業再生につながると見た芝山は、SILのメンバーとの議論の末、「みんなの森」プロジェクトを提案することにした。

水の流れを止めてしまっている「みんなの森」の作業道。この部分はまだ手つかず。水の流れを止めてしまっている「みんなの森」の作業道。この部分はまだ手つかず。
この部分は坂田昌子の指導の下、小石や石。落ち葉などを敷き詰め、水が下を流れる自然の橋を作ったこの部分は坂田昌子の指導の下、小石や石。落ち葉などを敷き詰め、水が下を流れる自然の橋を作った

 前述したように、木材価格の低迷で、現状では木を切るほど赤字が膨らむ状況だ。しかも、山林の所有者が代替わりを重ねたことで、所有者不明の山林も増えている。だが、適切に木を切り、若い木を植えていかなければ、森の二酸化炭素吸収量はどんどん落ちていく。

 そこで、市有林の一部を「みんなの森」と名づけ、その中で森の若返りや生物多様性、環境教育を進めるという提案である。

 最終的に、ヤフーのプロジェクトでは、尾鷲市を含む10の地方公共団体の提案が採用された。「提案資料の作り込みなど、SILの協力がなければ無理だったと思います」。そう芝山は打ち明ける。

 そして、ヤフーからの寄付金2600万円を得た尾鷲市は、森づくりの第一弾として、2022年1月から3月までの3カ月間「みんなの森」の整備に着手した。芝山によれば、この時は切り倒されたまま放置されていた間伐材を搬出したり、シダなどの下層植生を刈り取ったりという作業をしたという。

 ちなみに、第1回「荒れた人工林を復活させる!三重県尾鷲市「みんなの森」で進行中の生物多様性回復プロジェクトとは?」の中で、ある一カ所を除き、頂山には水の流れがほとんどなかったと書いたが、その一カ所はこの時に見つかった水脈である。

 このヤフーによる寄付は、尾鷲市による「ゼロカーボンシティ宣言」にもつながった。