尾鷲の森を経済的な森と生物多様性の森にゾーニング

 尾鷲市は2022年3月に、2050年に二酸化炭素排出の実質ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ宣言」を発表した。参画メンバーはNCLや三ッ輪HD、日本郵政、ヤフーといった企業である。「ゼロカーボンシティ宣言」によって、尾鷲のプロジェクトはもう一段、真剣度が増すことになった。

 徐々に回り始めた森林整備の歯車──。ヤフーによる企業版ふるさと納税の公募は翌2022年度もあったため、尾鷲市は継続事業として再度提案しようとした。すると、ヤフーからある相談を受けた。

 ヤフーとしては、カーボンニュートラルだけでなく、ESG投資の「E」の部分、つまり環境の要素も高めたい。ひいては、生物多様性の回復と森づくりを絡めることはできないかという相談である。

 それを聞いた芝山は、当初の狙いである林業再生から離れる感覚があった。ただ、生物多様性の回復は国連も旗を振る重要なテーマだ。また、どうせ取り組むのであれば、これまでにないような新しいものにしたい。

 そこで、芝山はSILのメンバーとともに、生物多様性のある森づくりについて議論、提案することにした。この第二弾の森づくりは、2022年10月から2023年3月の期間で実施された。

 その後、ヤフーのプロジェクトが終わったため、しばらく活動が止まった時期もあったが、2023年12月に三ッ輪ホールディングスが企業版ふるさと納税で2500万円を寄付。この資金が坂田を招いた生物多様性のある森づくりにつながった。

 今後は「みんなの森」の整備を続けると同時に、尾鷲市にある1万7000ヘクタールの森林のゾーニングマップを作るという。

「みんなの森」に戻ってきたアカハライモリ

 市内には市有林もあれば、個人が所有している私有林や国有林もある。その中で、従来の林業を続ける経済的な山と、生物多様性を目指す山で尾鷲市の森林を分け、それぞれにふさわしい管理の仕方を模索することが狙いだ。民間所有の私有林についても、尾鷲市やLC尾鷲が整備を代行すべく、所有者に働きかけていく。

 また、「みんなの森」プロジェクトのもう一つの軸である環境教育も、LC尾鷲が中心となって議論を進めている。