トランプ氏が偶像化される理由

雨宮:この事業を通して、バノンはゲーマーの世界を知ります。eスポーツが認知されてきている現在とは違い、当時、ゲーマーは現実世界ではあまり注目されない存在でした。ところが、そうした人々がネットの世界ではかなりの力を持っていることがある。このような状況を見たバノンは、ネットの力学を学んだものと見られています。

 その後、保守系のウェブメディアを経営したバノンは、ゲームについての議論が政治的な議論に結合される展開を目にします。

 2010年代半ば、フェミニズムの観点からゲームの物語設定やキャラクター設定などを批判する言説がリベラル側から受容される状況と、それに対する強烈な反発がゲーマーから生まれる騒動が発生しました。

 ここでは、ゲームを入り口にして、これまで左派やリベラルが焦点にしてきたフェミニズムやジェンダーの議論が行われています。バノンは後に、こうした議論に参加するゲーマーたちを「アーミー」と呼び、「このような騒動を通じて、政治やトランプに目を向けさせることができる」と述べています。

──ドナルド・トランプ氏が米大統領に再選されました。彼の政治的な主張を評価する支持者は数多くいますが、彼自身の意図を超えて人々が勝手に妄想を膨らませ、本来以上の者としてトランプ氏を祭り上げる社会心理が働いているようにも感じます。

雨宮:トランプ支持者の中には、しっかりとした保守派の理論を持っている人もいます。これは前提ですが、今年、我々ウォッチャーが注目したのは、トランプを応援するための神輿が出てくるデモが日本で何度か確認されたということです。

 そこからも分かるように、トランプは偶像化されやすいという特徴があります。これは他の政治家にはない能力で、アイコンになりやすい、人々が熱狂しやすいということは政治家としては大変な強みです。

 また、トランプはいわゆる政治家では考えられないような破壊的な言動をする。それが、今の世界の破壊や終末、そして新しい世界の到来を期待させるのです。

 退屈な日常を変えたいという欲求を、誰もが一度は抱いたことがあるのではないでしょうか。お行儀の悪さも、現状を破壊してほしい人たちにはプラスに映ります。

 卑近な例で恐縮ですが、夏に台風がやってくると、小学生がワクワクする話がありますよね。そのような感覚に近いと思います。これは案外、人間が持つ根源的な欲求なのかもしれません。

雨宮純(あまみや・じゅん)
ライター
思春期にカルト宗教による事件が多発したことから、カルト集団に関心を持つ。オカルト検証好きが高じて理工系大学院を修了した後、自身が勧誘されたことをきっかけにマルチ商法集団について取材し執筆活動を開始。著書に『あなたを陰謀論者にする言葉』、共著に『カルト・オカルト』『コンスピリチュアリティ入門』がある。

長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。