DAZNは、当初、プロ野球とも包括的な放送権契約を結ぶことを考えていたが、コミッショナー事務局は契約窓口にならなかったので、各球団と個別で契約することとなった。
DAZNとしては12球団をコンプリートした「DAZN BASEBALLプラン」の発売を予定していたが、地元放送局に義理立てをした広島が離脱したため、不可能になった。商品価値はガクッと落ちたのだ。11球団の年間契約額は合わせて百数十億円程度とされる。10年2000億円以上のJリーグと比べて、スケール感が大きく異なることがわかる。
ビジネスマインドの違い
MLBは、近年、何度もエクスパンション(球団拡張)を繰り返してきた。また、WBC(ワールドベースボールクラシック)の開催や、世界各地の野球リーグの支援、アマチュア野球の振興などの幅広い事業を展開している。「マーケットの拡大」「野球競技人口、ファンの醸成、拡大」を目的としたこれらの取り組みは、すべてコミッショナーのトップダウンで推進された。
さらに現在のコミッショナーのロブ・マンフレッドは「ユニバーサルDH(ナショナル・リーグのDH制導入)」、「ピッチクロック」、「内野ベースの大型化」など、ルール変更にも踏み込んでいる。
北米4大スポーツ(NBA=バスケット、NFL=アメリカンフットボール、NHL=アイスホッケー、MLB)の中で、最もファンの年齢増が高く、守勢に回っているとされるMLBとしては、次々と手を打って新たなファン層を獲得しようとしているのだ。
いささか「やりすぎ」との声もあるが、MLBは、コミッショナーが先頭に立って改革を推進している。
一方、NPBでは「DH制」の問題一つとっても遅々として議論が進まない。
韓国プロ野球(KBO)や台湾プロ野球(CPBL)では、DHはもとより、すでに「ピッチクロック」も導入しているが、NPBでは導入の議論も起こっていない。
経済格差だけでなく、時代の変化に対応した「改革のスピード」も日米では大きな格差がある。
2004年の球界再編時に、パ・リーグはMLBに倣ったビジネスモデルの構築を目指したが、セ・リーグの賛同を得ることができず、パ・リーグだけでPLM(パシフィックリーグマーケティング)が設立された。しかしNPB全体としては何も変わっていない。
こうした日米のプロ野球の「ビジネスモデルの違い」については、今から20年以上前に、帝京大学教授だった故大坪正則氏(1947~2014)が『メジャー野球の経営学(集英社新書)』などで指摘していた。
筆者は生前の大坪氏に話を聞いたが「MLBではコミッショナーも球団も『最大限の価値を求める』という明確な目的をもっている。でもNPBでは親会社から派遣された経営陣は、波風を立てないことばかり考えている」とため息をついておられた。
「変われない」「変わらない」NPBの姿勢は、停滞を続ける日本経済の縮図のようにも思える。観客動員が史上最多を記録した今こそ「変わる」チャンスだと思うのだが。