グリーンランドを争点化する意味

──グリーンランドはレアアースの鉱床交渉があり、地政学的にも押さえておく価値がある。パナマ運河は、中国の企業が管理しているので容認できない。こうした理屈があるそうですが、どこまで本気なのでしょうか。

前嶋:トランプ氏からすると「争点化してしまえば勝ち」という面があります。「中国がグリーンランドやパナマ運河に進出してきている」「これはとんでもないことだ」と言いたい。そうすると、支持者が増える。

 今、共和党支持者たちは日本人以上に、中国に対して批判的になっています。中国批判をすればするほど、共和党支持者を引き付けることができます。

 また、アメリカは冷戦時代からグリーンランドがほしいと言ってきました。1946年には、トルーマン大統領が「1億ドルでグリーンランドを購入させてほしい」とデンマークに提案しています。

 グリーンランドは2つの意味で重要です。温暖化で北極海航路ができ、中国から船で直接北極に行けるようになりました。また、ロシアの存在を考えれば、このエリアをアメリカは押さえておく必要がある。

 そして、デンマークを含め、対ヨーロッパに対してですが、NATO(北大西洋条約機構)加盟国にもっとカネを出させるため、加盟国の国防費をGDP比5%に上げるよう要求しています。アメリカもまだ3%強なんですけどね。

 つまり、グリーンランドを争点化すると同時に、ヨーロッパに「もっと軍事費を出せ」と言っているのです。ヨーロッパがもっと出せば、アメリカの支出をその分、下げることができる。結局アメリカファーストにつながるという発想です。

──「カネを出せ」とゆするための1つのネタということですね。

前嶋:そうです。トランプ氏の頭の中を考えると、利益を出しやすいのは、敵対国よりも同盟国や友好国です。言い方を変えれば、安全保障でアメリカに依存しているのでぼりやすい。トランプ氏の言動を見ていると、実際にそうなっています。

 グリーンランド自体は、トルーマン大統領がほしがった時代とは異なり、今では独立運動も盛んで、自治政府もできていますから、アメリカが支配するのは実際には難しいと思います。

 パナマ運河に関しては、カーター批判の一面があります。パナマを返還したのは、カーター元大統領でした(※)。「パナマ運河をカーター元大統領が1ドルで返還してしまった」「その恩恵でアメリカはいい扱いをうける約束だったのに、そうなっていない」とトランプ氏は1月7日の記者会見で愚痴を言っています。

※1977年9月、アメリカのジミー・カーター大統領とパナマのマルティン・トリホス大統領はパナマ運河をアメリカからパナマへ返還する条約を締結した(新パナマ運河条約)。