トランプ氏が領有権を主張したパナマ運河(写真:AP/アフロ)トランプ氏が領有権を主張したパナマ運河(写真:AP/アフロ)

 就任式を間近に控えたトランプ次期大統領が、グリーンランドやパナマ運河の領有権を主張し、カナダを併合したいと、唐突に新しい要望を語り始めた。なぜこのタイミングでこうした提案を次々と繰り出すのか。現代アメリカ政治外交が専門の上智大学・総合グローバル学部・総合グローバル学科教授の前嶋和弘氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──グリーンランド、パナマ運河、カナダなどをめぐる一連のトランプ次期大統領の言動から、どんなことをお感じになりますか?

前嶋和弘氏(以下、前嶋):私は、3つの事柄がトランプ氏のこうした言動の背後にあると思います。

 1つめは、トランプ氏はすごく急いで準備を進めているということです。就任式の前に、派手に花火を打ち上げていますが、これは同時に観測気球でもあります。

 トランプ次期大統領の様々な提案は、一見すると荒唐無稽に思えますが、こうした場所を支配することが重要だと指摘することで、こうした場所が争点なのだと世界に知らしめている。観測気球をあげながら議題設定をしているのです。

 2つめは、先の大統領選で減税や規制緩和など富裕層向けの経済政策を掲げたわりに、比較的貧しい人々からの得票があったという点です。このまま政権運営を進めていけば、やがて貧困層にしわ寄せがいくので、トランプ次期大統領のメッキがはがれてくる可能性があるということです。

 農業や製造業を守ると言いながら輸入品に関税をかけていけば、インフレを引き起こし、やはり貧困層がダメージを受ける。だから、急いで他のことで結果を出そうとしているのです。

 あたかも前回の大統領選および連邦議会選で、トランプ氏と共和党が圧勝したかに日本では考えられていますが、トランプ氏とハリス氏の一般投票の差はわずか1.5ポイントですから今世紀で最も競った選挙です。

 そして、コートテール効果(※)があるので、少なくとも下院で数議席のプラスが出ると予想されましたが、共和党はマイナス2議席でした。下院の議席の差は、共和党が220議席で、民主党が215議席です。これはアメリカの歴史で最も競っています。

※コートテール効果:大統領選挙の年は、大統領の人気により、所属政党の議席が上積みされる現象。

 こう考えると、トランプ氏は議会に頼ることができません。自分が動いて、大統領令をどんどん出して物事を変えていくしかない。つまり、ルールの根本を変えるのではなく、ルールの解釈で何ができるかを考えながら物事を進めたいということです。