
「4州の完全併合」と「NATO加盟阻止」が最低条件のプーチン氏
1月20日に「トランプ2.0」が本格始動するが、当のトランプ氏は米大統領の就任式を待たずして、盛んに怪気炎を連発。世界中を驚愕の渦に巻き込んでいる。
中でも注目したいのが、ウクライナ戦争の停戦に関する「トーンダウン」だろう。
大統領選期間中は「就任すれば24時間で戦争を終わらせる」と大見得を切ったが、再選を果たすと、今年1月初旬の会見では「(大統領就任から)6カ月は欲しい。できればそれよりずっと前に終わらせたい」と、あっさりと大幅延長の可能性を示唆した。
そもそも24時間で停戦交渉が妥結するなど誰も信じておらず、選挙戦にありがちな“誇大広告”なのは明らかだった。これを真に受ける大手メディアや外交専門家も皆無に近いだろう。
ただ、24時間を6カ月に大幅延長したとしても、果たしてこれほどこじれた大戦争を停戦に持ち込むことはできるのだろうか。
トランプ氏にはそれなりの秘策があるのだろう。詳細は後述するが、「強制外交」による“ショック療法”でロシアのプーチン大統領を交渉のテーブルに引きずり出そうと考えているのかもしれない。
2022年2月に勃発したウクライナ戦争は、今年で4年目を迎え、仕掛人であるプーチン氏が想定した短期決戦とは異なり、長期戦・消耗戦・塹壕戦に陥っている。
ウクライナ・ロシア国境と南部アゾフ海沿岸から、百数十kmウクライナ領内に入った地点に戦線が引かれ、両軍とも数十万人の将兵を展開させ、長大な塹壕・陣地を構築し、攻防を繰り広げている。

だが2024年8月上旬に、ウクライナ軍がロシア本土のクルスク州へ逆侵攻したことを除き、2年ほど前から戦線に大きな変更はなく、膠着状態が続く。それでもロシアは、将兵の犠牲を顧みない人海戦術を多用し、ジワジワと侵略地を拡大している。将兵の動員数に劣るウクライナ側は防戦に必死の情勢だ。

停戦交渉にはウクライナのゼレンスキー大統領、プーチン氏ともに一応前向きで、ゼレンスキー氏は2014年にロシアが一方的に併合宣言したクリミア半島も含め、自国領土の一括返還を最低条件に掲げてきた。
だが、昨年半ばごろから徐々に軟化。ロシアの占領地は外交的方法で返還交渉に臨み、“非占領地”のウクライナ本土は、強力な集団的自衛権を持つNATO(北大西洋条約機構)に加盟することで、停戦後にロシアが侵略を再開することを阻むという安全保障上の確固たる担保を強く要求してきた。
一方のプーチン氏は、多数の人的損失と引き換えに占領地を拡大する無謀な戦術を多用し、強引に戦場での優位を保っている。このため、和平交渉に掲げる最低条件はあくまでも強気だ。
・一方的に併合したウクライナ占領地(クリミア半島以外のドネツク、リハンスク、ザポリージャ、ヘルソン4州)からのウクライナ軍の完全撤退
・ウクライナのNATOへの加盟断念
この2点が絶対条件で、譲歩のそぶりは見せない。